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2005ソスN9ソスソス6ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

September 0692005

 選挙近し新米古米まぜて炊く

                           大元祐子

語は「新米」で秋。出回るには今年はまだ少し早いが、むろん掲句のような年もあるわけだ。「選挙」は国民の米櫃に関わる大事だから、「米」との取り合わせにはごく自然な感じを受ける。家計をあずかる主婦として、せっかくの「新米」なのでそれだけで炊きたいところを、残っている「古米」と「まぜて炊く」。少々水加減が難しそうだが(笑)、やりくりとはこういうことだ。一度や二度の「ぜいたく」くらいと思っていると,だんだんと家計のあちこちに赤字の穴が開いてしまう。それでなくとも増税のつづく世の中、ただ単に生きて呼吸しているだけで、年々の出費はかさばる一方である。今度の選挙では、果たしてどんな結果が出るのだろうか。主婦は主婦の立場から、理想的とまでは言わないまでも,それに近い政策を実行してくれる勢力の伸長を願いつつの炊事である。主婦は主婦の立場からといえば、私は高齢者の立場から、今度の選挙を見ている。見ざるを得ない。年金問題をはじめ、医療費やらその他の老人福祉問題を含めて、おおかたの党派は偽善的で冷淡だ。若い候補者などは、いつか自分も高齢者になることなど、まったく念頭にないかのようだ。高齢者であろうと、搾り取れる金は搾り取る。こんな考えが政治家に横行するようでは、早晩この国も衰退してしまうだろう。生きてて良かった。誰もが、素朴にそう思える社会になってほしい。『人と生れて』(2005)所収。(清水哲男)


September 0592005

 桔梗の二夫にまみえて濃紫

                           阿部宗一郎

語は「桔梗(ききょう、きちこう)」で秋。秋の七草の一つではあるが,実際には六月頃から咲きはじめる。昔は朝顔のことだったという説もあるので、秋の花の定説が生まれたのだろうか。ところで、掲句がすらりとわかった読者は、かなり植物に詳しい人である。わからなかった私は、百科事典などをひっくりかえして、ようやく納得。「二夫(にふ)」は二人の夫の意味で、儒教に「貞女二夫にまみえず」の教えがある。たとえ未亡人の身になっても再婚しないのが女の鑑(かがみ)というわけだが、「桔梗」の場合はそうはいかないのである。そんなことをしていたら、子孫が絶えてしまうからだ。少し説明しておくと,桔梗の雄しべは開花後にすぐ成長して花粉を放出する。雌しべは、その後でゆっくりと成長していく。つまり同一の花の雄しべと雌しべの交配を避ける(自家授粉しないための)仕組みであり、雌しべは常に他の花の雄しべの花粉で受精することになる。「雄ずい先熟」と言うのだそうだが、すなわち桔梗の雌しべは「二夫にまみえて」はじめて子孫を残すことができるというわけだ。桔梗というと、私などには清楚で凛とした花に見える。が、こうした生態を知っている作者には、その「濃紫」がどこかわけありで艶っぽく感じられると言うのだろう。今度実物に出会ったら、じっくりと眺めてみたい。『現代俳句歳時記』(2004・学習研究社)所載。(清水哲男)


September 0492005

 鰯雲記憶は母にはじまれり

                           伊藤通明

語は「鰯雲(いわしぐも)」で秋。郷愁に誘われる雲だ。郷愁の行き着く先は幼少期だが、突き詰めていけば最初の記憶にまでさかのぼる。夢か現か、ぼんやりとしてはいるけれど、作者の記憶は「母」にはじまっていると言うのだ。どんな顔や姿で記憶された母の姿なのだろう。ミルクの匂いでもしてきそうな句だ。こういう句は、読者を誘惑する。「あなたの場合はどうですか」と、誘ってくる。私の最初の記憶は、何だったろうか。三島由紀夫は産湯のときから覚えていると書いたが、そんなにさかのぼれはしない。懸命に思い出してみるが、あれは何歳のときだったのか。たぶん、病気で寝かされていたのだろう。目覚めると夕暮れ近くで,表を通る豆腐屋のラッパの音が聞こえていた。部屋には誰もいなかったことや、その部屋が家の中のどの部屋だったかは思い出せる。そのときに「こうして寝ているのも気持ちがいいなあ」と思ったこともはっきりと……。四歳か五歳くらいだったのではあるまいか。ただし、記憶という奴はくせ者だから、これが最初の記憶だという保証はどこにもない。最初の記憶だとしても、豆腐屋のラッパがそのときのものだったのか、あるいは同じような状況が何度かあって、その都度の印象が複合されたものかもしれないのだからだ。つまり、記憶は太るものでもあれば、逆に痩せるものでもある。では、あなたの最初の記憶の場合は如何でしょうか。『西国』(1989)所収。(清水哲男)




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