今年は旅客機のトラブル多発。昨日もエンジンからオイル洩れ。ますます飛行機嫌いに。




2005ソスN9ソスソス29ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

September 2992005

 姫君の鎧の胸に銀やんま

                           佐藤博重

鎧
語は「やんま」、代表格が「銀やんま」で海上を飛ぶ性質を持つ。秋の「蜻蛉」に分類。現存する女性用の「鎧(よろい)」といえば、瀬戸内海の中央に浮かぶ大三島の大山祇神社に保存されているのが唯一のものだ。見られるように、胸の辺りがふっくらとしていてウエストは細い。掲句は、この鎧を実見した際のものである。鎧を着用していたのは、瀬戸内のジャンヌダルクと称される鶴姫だ。時は16世紀室町期。周防の大内義隆の水軍が、大三島神社の宗教的権威を手に入れようと攻め込んできた。迎え撃った三島水軍の大将大祝安房は、激戦の果てに討ち死にしてしまう。そこで安房の妹である鶴姫が、兄に代わって三島水軍を率いることに。当時十六歳の彼女は勇猛果敢に戦い、二度にわたって敵を打ち破った。だが、三度目の戦いで恋人である城代の越智安成が戦死。その悲しい知らせを受けた鶴姫は、ひとり夜の海へと船を漕ぎだしていき、二度と島に帰ることはなかったという。作者はこの伝説と鎧から実際に鶴姫の勇姿を連想し、胸元についと銀やんまをかすめさせた。このときに銀やんまは光の矢であるから、鶴姫の女性性はいやが上にも強調され、にもかかわらず男に伍して一歩も退かない凛とした姿も浮かび上がってくるのだ。ただ句とは無関係だが、たいていの伝説の主人公がそうであるように、どうやら鶴姫は創作上の人物らしい。だとしたら、鎧の本当の持ち主は誰だったのだろう。『初蝶』(2005)所収。(清水哲男)


September 2892005

 殊に濃き天誅村の葉鶏頭

                           塩路隆子

語は「葉鶏頭(はげいとう)」で秋。雁が飛来する頃に葉が色づくので、「雁来紅(がんらいこう)」とも。「かまつか」の別名もある。句の「天誅(てんちゅう)村」とは、おそらく幕末の尊王攘夷激派であった天誅組終焉の地の奈良県は東吉野村のことだろう。明治維新の五年前、大和に兵を挙げた若き浪士の集団・天誅組は、思いもよらぬ京都での政変のあおりをくらう形で朝敵視され、志を果たせぬままに討ち果たされた。純粋が老獪に破れた格好だ。非情なことを言えば、逆の立場の新撰組がそうであったように、彼らもまた新しい日本をつくるための捨て石であった。現在、東吉野の里には終焉の地の碑が建てられており、その悲劇性により全国的にも人気が高いという。そんな若者たちの烈々たる赤心を、作者は葉鶏頭の朱に認めたのだろう。そして「殊(こと)に濃き」色には、流された彼らの血の色も重ねられている。歴史的に有名な事件や出来事のあった土地を旅すると、どうしてもそれらのフィルターを通して、風景や景物を眺めることになる。そこで日常生活を営んでいる人たちはさして意識していないことまでをも、旅行者の目は見つめてしまう。掲句もその典型の一つだ。が、しかしこのようにして歴史は後世へと語り継がれていくのでもあるから、貴重な一句と言えよう。『美しき黴』(2004)所収。(清水哲男)


September 2792005

 黒葡萄包む「山梨日日」に

                           中村与謝男

語は「葡萄(ぶどう)」で秋。作者は関西在住だから、山梨に旅したときの句だろう。山梨は、ご存知のように有数の葡萄の特産地だ。葡萄狩りを楽しんだのだろうか。摘んだ黒葡萄をお土産に持ち帰るのに、「山梨日日(新聞)」で包んだというのである。ただそれだけの句であるが、他の新聞ではなく、わざわざ地元紙を選んで包んだところがミソなのだ。つまり作者は、葡萄だけではなくて,それを包んだ新聞までが土産になるという思いつきを喜んでいる。どうせ包むならそうありたいと、ちょっと私にもそういうところがある。どの地方でも読める全国紙なら、土産をもらった人はすぐに捨ててしまうだろうが、普段は読めない地方紙だと、目を通したくなるのが人情だ。少なくとも、見出しや写真だけにでも注目してくれるだろうと、作者のいわばサービス精神が働いている。特産物を、地元の社会的な雰囲気といっしょに届けるという発想は嬉しい。ちなみに、昨日付「山梨日日」朝刊のヘッドラインから拾っておくと、「秋季関東高校野球、4強出そろう」「10月2日の須玉甲斐源氏祭り、戦国時代の櫓が登場」「甲府一高伝統の『強行遠足』、野辺山目指し健脚競う」等々だ。「強行遠足」の小見出しには「男子の7割、女子9割が完走果たす」とある。こんな記事の載っている新聞で葡萄が包んであったとしたら、私は喜んで読んでしまうだろう。『樂浪』(2005)所収。(清水哲男)




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