巨人に勝っての阪神優勝。「やった」と思うと同時に、栄枯盛衰、時の流れを感じます。




2005ソスN9ソスソス30ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

September 3092005

 物の音散りあつまりて十月へ

                           黒川路子

語は「十月」で秋。早いもので、今日で今年も四分の三が過ぎることになる。明日からは、秋も一段と深まりゆく十月だ。そんな気持ちのなかで掲句を読むと、特に何が書いてあるわけでもないけれど、しみじみと胸に沁み入ってくるものがある。書かれているのは、単に「物の音」の状態だけだ。何の音かは、特定されていない。この季節のいろいろな音、聞こえてくるもろもろの雑多な音である。九月は秋といっても、まだまだ暑さの厳しい日があって夏を引きずっており、注意力や集中力も散漫になりがちだから、聞こえてくる音も雑多なままに、いわば「散」っている感じだ。ところが、だんだん朝夕から涼しくなりはじめると、心の統合力も高まってくる。雑多に散るがままに聞き捨ててきた「物の音」が、ひとつひとつはっきりと認識できるようになり、とりわけて風や雨などの自然の音は明らかに一つの方向へと「あつま」りはじめるように聞こえてくる。一つの方向とは、むろん涼しくて爽やかな季節へのそれだ。九月も終りの頃は、そろそろそれらの音が「散りあつまり」しながら聞こえる季節を過ぎて、透明に「あつまる」感じが濃くなってくる。そうなると、いよいよ十月だ。抽象的な句ながら、本格的な秋の訪れへの期待感が、逆に具体的身体的に感じられるところは心憎いほどの巧さだ。さあ、「十月へ」。『新歳時記・秋』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)


September 2992005

 姫君の鎧の胸に銀やんま

                           佐藤博重

鎧
語は「やんま」、代表格が「銀やんま」で海上を飛ぶ性質を持つ。秋の「蜻蛉」に分類。現存する女性用の「鎧(よろい)」といえば、瀬戸内海の中央に浮かぶ大三島の大山祇神社に保存されているのが唯一のものだ。見られるように、胸の辺りがふっくらとしていてウエストは細い。掲句は、この鎧を実見した際のものである。鎧を着用していたのは、瀬戸内のジャンヌダルクと称される鶴姫だ。時は16世紀室町期。周防の大内義隆の水軍が、大三島神社の宗教的権威を手に入れようと攻め込んできた。迎え撃った三島水軍の大将大祝安房は、激戦の果てに討ち死にしてしまう。そこで安房の妹である鶴姫が、兄に代わって三島水軍を率いることに。当時十六歳の彼女は勇猛果敢に戦い、二度にわたって敵を打ち破った。だが、三度目の戦いで恋人である城代の越智安成が戦死。その悲しい知らせを受けた鶴姫は、ひとり夜の海へと船を漕ぎだしていき、二度と島に帰ることはなかったという。作者はこの伝説と鎧から実際に鶴姫の勇姿を連想し、胸元についと銀やんまをかすめさせた。このときに銀やんまは光の矢であるから、鶴姫の女性性はいやが上にも強調され、にもかかわらず男に伍して一歩も退かない凛とした姿も浮かび上がってくるのだ。ただ句とは無関係だが、たいていの伝説の主人公がそうであるように、どうやら鶴姫は創作上の人物らしい。だとしたら、鎧の本当の持ち主は誰だったのだろう。『初蝶』(2005)所収。(清水哲男)


September 2892005

 殊に濃き天誅村の葉鶏頭

                           塩路隆子

語は「葉鶏頭(はげいとう)」で秋。雁が飛来する頃に葉が色づくので、「雁来紅(がんらいこう)」とも。「かまつか」の別名もある。句の「天誅(てんちゅう)村」とは、おそらく幕末の尊王攘夷激派であった天誅組終焉の地の奈良県は東吉野村のことだろう。明治維新の五年前、大和に兵を挙げた若き浪士の集団・天誅組は、思いもよらぬ京都での政変のあおりをくらう形で朝敵視され、志を果たせぬままに討ち果たされた。純粋が老獪に破れた格好だ。非情なことを言えば、逆の立場の新撰組がそうであったように、彼らもまた新しい日本をつくるための捨て石であった。現在、東吉野の里には終焉の地の碑が建てられており、その悲劇性により全国的にも人気が高いという。そんな若者たちの烈々たる赤心を、作者は葉鶏頭の朱に認めたのだろう。そして「殊(こと)に濃き」色には、流された彼らの血の色も重ねられている。歴史的に有名な事件や出来事のあった土地を旅すると、どうしてもそれらのフィルターを通して、風景や景物を眺めることになる。そこで日常生活を営んでいる人たちはさして意識していないことまでをも、旅行者の目は見つめてしまう。掲句もその典型の一つだ。が、しかしこのようにして歴史は後世へと語り継がれていくのでもあるから、貴重な一句と言えよう。『美しき黴』(2004)所収。(清水哲男)




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