十月になりました。北海道層雲峡などの紅葉は、来週が見頃だそうです。深まりゆく秋。




2005ソスN10ソスソス1ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

October 01102005

 出会ひの握力別れの握力秋始まる

                           今井 聖

の「秋始まる」は、暦の上の「立秋」ではなく、実質的な秋の到来を指しているのだと思う。したがって、「秋」に分類しておく。「出会ひ」と「別れ」の具体的な状況はわからないが、そのいずれの場合にも、かわす握手には自然に力がこもると言うのである。秋のひきしまった大気は、おのずからひきしまった行為につながってゆく。本格的な秋の訪れの感慨を、「握力」を通じて描き出した視点は新鮮だ。作者に、実感を伴った体験があるからだろう。絵空事では、こういう句は作れない。ところで放送生活二十年の私としては、鈴木志郎康さんの用語を借りれば「極私的」にも観賞したい句だ。放送局の十月は、まさに「秋始まる」月だからである。ラジオにもテレビにも番組改変期は春四月と秋十月にあり、それに伴って何人かのスタッフや出演者の入れ替えがあるのが普通だ。春の人事異動なら、世間一般に行われることなのでそうでもないが、秋のそれは放送局に特有なことゆえに、とくに「別れ」には寂しさがつきまとう。歓送会での握手にも、それこそ自然に力がこもるのである。在任中に、そんな握手をかわして何人の仲間を見送ってきたことだろう。なかには会社から理不尽な異動理由を突きつけられて、会社そのものから去っていった人もいる。みんな元気にしているだろうか。掲句を読んで、ふっと感傷的になった次第である。俳誌「街」(55号・2005年10月)所載。(清水哲男)


September 3092005

 物の音散りあつまりて十月へ

                           黒川路子

語は「十月」で秋。早いもので、今日で今年も四分の三が過ぎることになる。明日からは、秋も一段と深まりゆく十月だ。そんな気持ちのなかで掲句を読むと、特に何が書いてあるわけでもないけれど、しみじみと胸に沁み入ってくるものがある。書かれているのは、単に「物の音」の状態だけだ。何の音かは、特定されていない。この季節のいろいろな音、聞こえてくるもろもろの雑多な音である。九月は秋といっても、まだまだ暑さの厳しい日があって夏を引きずっており、注意力や集中力も散漫になりがちだから、聞こえてくる音も雑多なままに、いわば「散」っている感じだ。ところが、だんだん朝夕から涼しくなりはじめると、心の統合力も高まってくる。雑多に散るがままに聞き捨ててきた「物の音」が、ひとつひとつはっきりと認識できるようになり、とりわけて風や雨などの自然の音は明らかに一つの方向へと「あつま」りはじめるように聞こえてくる。一つの方向とは、むろん涼しくて爽やかな季節へのそれだ。九月も終りの頃は、そろそろそれらの音が「散りあつまり」しながら聞こえる季節を過ぎて、透明に「あつまる」感じが濃くなってくる。そうなると、いよいよ十月だ。抽象的な句ながら、本格的な秋の訪れへの期待感が、逆に具体的身体的に感じられるところは心憎いほどの巧さだ。さあ、「十月へ」。『新歳時記・秋』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)


September 2992005

 姫君の鎧の胸に銀やんま

                           佐藤博重

鎧
語は「やんま」、代表格が「銀やんま」で海上を飛ぶ性質を持つ。秋の「蜻蛉」に分類。現存する女性用の「鎧(よろい)」といえば、瀬戸内海の中央に浮かぶ大三島の大山祇神社に保存されているのが唯一のものだ。見られるように、胸の辺りがふっくらとしていてウエストは細い。掲句は、この鎧を実見した際のものである。鎧を着用していたのは、瀬戸内のジャンヌダルクと称される鶴姫だ。時は16世紀室町期。周防の大内義隆の水軍が、大三島神社の宗教的権威を手に入れようと攻め込んできた。迎え撃った三島水軍の大将大祝安房は、激戦の果てに討ち死にしてしまう。そこで安房の妹である鶴姫が、兄に代わって三島水軍を率いることに。当時十六歳の彼女は勇猛果敢に戦い、二度にわたって敵を打ち破った。だが、三度目の戦いで恋人である城代の越智安成が戦死。その悲しい知らせを受けた鶴姫は、ひとり夜の海へと船を漕ぎだしていき、二度と島に帰ることはなかったという。作者はこの伝説と鎧から実際に鶴姫の勇姿を連想し、胸元についと銀やんまをかすめさせた。このときに銀やんまは光の矢であるから、鶴姫の女性性はいやが上にも強調され、にもかかわらず男に伍して一歩も退かない凛とした姿も浮かび上がってくるのだ。ただ句とは無関係だが、たいていの伝説の主人公がそうであるように、どうやら鶴姫は創作上の人物らしい。だとしたら、鎧の本当の持ち主は誰だったのだろう。『初蝶』(2005)所収。(清水哲男)




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