October 042005
風化せし初恋ながら龍の玉
小島可寿
季語は「龍の玉(りゅうのたま)」で秋。まだ本物の宝石など見たこともなかった子供のころ、この小さな瑠璃色の玉を見て「なんだか宝石みたいだな」と思った記憶がある。実が固くてよく弾むので、地面にバウンドさせて遊んだりもしたが、それよりも日陰にひんやりと忘れられたようにある状態を眺めるのが好きだった。子供のときから、センチメンタルな気質だったということか。最近、あまり見かけなくなったのが寂しい。掲句は、そんな私の印象によく通じていて忘れ難い。遠い日の「初恋」は既に「風化」しており、もはや相手の面影すらもが鮮明とは言えなくなってきた。ただつれづれに、そのころのことを思い出すことがあると、心の状態だけは昔そのままによみがえってくる。いまでも、胸がきゅんとなる。それはさながら、細長い葉むらの奥にひっそりと実を結ぶ「龍の玉」のようにあくまでも静かではあるが、あくまでも色鮮やかなのだ。「風化」とは言っても、心情的には限りなく「昇華」に近いそれだろう。「龍の玉」の特性をよく生かした抒情句である。青柳志解樹編『俳句の花・下巻』(1987)所載。(清水哲男)
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