明日から三日間の予定で博多行き。仕事です。原稿もあるしシリーズもあるしで大忙し。




2005ソスN10ソスソス26ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

October 26102005

 蓑虫の蓑は文殻もてつづれ

                           山口青邨

語は「蓑虫(みのむし)」で秋。そこはかとなく哀れを誘う虫だ。江戸期の百科事典とも言うべき『和漢三才図絵』(東洋文庫・平凡社)に、その風情がよくまとめられている。「その首を動かす貌、蓑衣たる翁に彷佛(さもに)たり。ゆゑにこれに名づく。俗説に、秋の夜鳴きて曰、秋風吹かば父恋しと。しかれども、いまだ鳴声を聞かず。けだし、この虫木の葉を以て父と為し、家と為し秋風すでに至れば、零落に近し。人これを察して、付会してかいふのみ。その鳴くとは、すだく声にあらず、すなはち涕泣の義なり」。すなわち、蓑虫はいつも涙を流して泣いているのだ。だとすれば、蓑虫よ。木の葉などの蓑をまとわずに、「文殻(ふみがら)」でこしらえた蓑こそが、お前には似つかわしいぞ。懐かしい古い手紙の数々を身にまとえば、少しは心の慰めになろうものを。掲句は、そう言っている。優しい句だ。掲句を読んで、子供ののころにやらかした悪戯を思い出した。ぶら下がっている蓑虫を取ってきて丸裸にし、それをあらかじめ千切っておいた色紙の屑に乗せておく。そのまま遊びに出かけて帰ってくると、なんと蓑虫は色鮮やかな衣装に着替えているというわけだ。これはなんとも野蛮な所行だったが、この虫が文殻を着ることも不可能ではないわけで、作者もそんな遊びを知っているなと、ちらりと余計なことを思ってしまった。『新歳時記・秋』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)


October 25102005

 しぐるるや船に遅れて橋灯り

                           鷹羽狩行

語は「しぐるる(時雨るる)」、「時雨」に分類。冬の季語だが、晩秋を含めてもよいだろう。昔の歌謡曲に「♪どこまで時雨ゆく秋ぞ」と出てくる。作者はおそらく、海峡近くのホテルあたりから海を見ているのだ。日暮れに近い外はつめたい時雨模様で、遠くには灯りをつけた船がゆっくりと動いている。と、近景の長い橋にいっせいに明りが灯った。時雨を透かして見える情景は、まさに一幅の絵のように美しい。しばし陶然と魅入っている作者の心持ちが、しみじみと伝わってくる句だ。言うなれば現代の浮世絵であるが、絵と違って、掲句には時間差が仕込まれている。何でもないような句だけれど、巧いなあと唸ってしまった。「しぐるる」の平仮名表記も効果的だ。この句を読んでふと思ったことだが、橋に明りが灯るようになったのはいつごろからなのだろうか。明治期の錦絵を見ると、日本橋に当時の最先端の明りであるガス灯が灯っていたりする。しかし通行人はみな提灯をさげていて、そのころの夜道の暗さがしのばれるが、これは実用と同時にライトアップ効果をねらった明りのようにも思える。ガス灯以前の橋の上が真っ暗だったとすると、月の無い夜、大川あたりの長い橋を渡るのはさぞや心細かったに違いない。まして、時雨の夜などは。俳誌「狩」(2005年11月号)所載。(清水哲男)


October 24102005

 透く袋ぱんぱん桜落葉つめ

                           星野恒彦

語は「落葉」で冬。多くの木々の落葉にはまだ早いが、桜は紅葉が早い分だけ、落葉も早い。近所に立派な桜の樹があって、昨日通りかかったら、もうはらはらと散り初めていた。掲句は半透明のゴミ捨て用の袋に、散り敷いた「桜落葉」を集めて詰め込んでいるところだ。かさ張るのでぎゅうぎゅうと押し込み、ときおり「ぱんぱん」と袋を叩いて隙間を無くするのである。「ぱんぱん」という乾いた音が、よく晴れた秋の日差しに照応して心地よい。近隣の秋のフェスティバルだったか、あるいは保育園の催しだったか、参加者は「落葉を持ってきてください」と呼びかける広報紙を見たことがある。たしか持参者には、落葉の焚火での焼芋を進呈すると付記されていた。なかなかに粋な企画ではないか。そうして集めた落葉を何に使うのかというと、子供たちのために「落葉のプール」を作るのだという。そこら中に落葉を敷きつめて、その上で子供たちが転がったりして遊ぶためのふかふかのプールだ。実際に見に行かなかったのだけれど、面白い発想だなと印象に残っている。このときもおそらく主催者側では、集まる落葉の量がアテにならないので、掲句のように「ぱんぱん」と袋に詰めてまわったのだろう。どこにでもありそうな落葉だが、いざ意識的に集めるとなると、都会では大変そうだ。私はといえば、ときに本の栞りにと、銀杏の葉などを一二枚拾ってくるくらいのものである。「ぱんぱん」の経験はない。『邯鄲』(2003)所収。(清水哲男)




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