December 092005
ぬぬつと大根ぬぬぬとニュータウン
今富節子
季語は「大根」で冬。ははは、これは愉快。対比の妙、言い得て妙。この冬も畑に勢い良く大根が育ち、「ぬぬつ」と伸びてきた。で、はるかあなたを見渡せば、あちらでは幾棟もの高層住宅が「ぬぬぬ」と伸びている。大根は育つものゆえ「ぬぬつ」なのであり、ニュータウンの住宅はもはや育たないので「ぬぬぬ」のままの状態なのである。何気ない表現に見えて、神経が行き届いている。ところで、ニュータウン。句としてはむろんこれで良いのであるが、近づいてみると、いろいろな問題があるようだ。元来ニュータウンは、若い夫婦の入居先に考えられた住宅街で、子育てが終わったら次の世代の夫婦と交替する構想のもとにあった。だが、現実的には地価の高騰などによる住宅難から、スムーズな世代交替は行われず、いまやオールドタウンと言われるところも珍しくはない。「また、行政自らが、住民の共有財産といえる、風土や自然環境を破壊して土地を開発し、その土地の売却で新たな事業資金を得るという、まるで不動産開発業者のような事業形態が多い。その結果、現実の需要に関わり無く、過大な需要予測に基づいて次々に開発を続けて行くといった事態が生じ、特にバブル経済破綻後、これらの事業体が巨額の累積赤字、借入金や売れない土地を抱えている事実が判明して、その処理が大きな社会問題になっている」(「Wikipedia」より)。読者のなかには、ニュータウンにお住まいの方もおられるだろう。遠望すれば「ぬぬぬぬ」の街区にも、諸問題は途切れることなく「ぬぬつ」と頭をもたげつづけているというわけだ。『多福』(2005)所収。(清水哲男)
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