季節の変わり目。火事(冬の季語)に加えて雪崩(春の季語)による犠牲者が増えてきた。




2006ソスN2ソスソス12ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

February 1222006

 春寒くわが本名へ怒濤の税

                           加藤楸邨

語は「春寒(はるさむ)」だが、句意には「春にして、いよいよ寒し」の感がある。「怒濤の税」をかけられて怒り心頭に発し、寒さなど吹っ飛ぶかと思いきや、あまりの予想外の重税にかえって冷静になってしまい、何度も数字を確認しているうちに、ますます寒さが身に沁みている図だ。上手な句ではないけれど、「本名に」が効いていて、当人の困惑狼狽ぶりがよく伝わってくる。ちなみに、作者の本名は「加藤健雄」という。私は筆名を使わないのでわからないのだが、使う人にしてみれば、筆名で得た収入の税金を、稼ぎの少ない本名に課されるのは、それだけで理不尽な感じがするのだろう。同じ人間が二つの名前を使っているにせよ、それぞれ「加藤楸邨」と「加藤健雄」と名乗るときの人格は、多少とも区別されているに違いないからだ。大袈裟に言えば、当人にもほとんど別人のように思えるときもありそうである。それがお役所の手にかかると、にべもなく同一人物とされてしまうのだから、とりわけて収入の少ない「健雄」には納得し難いというわけだ。税金の季節、今年も申告用紙が送られてきた。収入からして私に「怒濤の税」は無縁だが、つらつら項目を仔細に眺めてみるに、いろいろな控除額が激減している。広く薄く、取れるところからは少しでも取ろうという魂胆が見え透いていて不快である。掲句とはまた別の「春寒」を感じている納税者が、今年はずいぶんと増えているのではあるまいか。『俳句歳時記・春の部』(1955・角川書店)所載。(清水哲男)


February 1122006

 机低過ぎ高過ぎて大試験

                           森田 峠

語は「大試験」で春。戦前は「大試験」というと、富安風生の「穂積文法最も苦手大試験」のように、学年試験や卒業試験のことだった。ちなみに「小試験」は学期末試験を言った。掲句の作者は戦後の高校教師だったから、句の情景は入学試験である。いつのころからか卒業試験は形骸化してしまった(ような)ので、現代で「大」の実感を伴うのは入学試験をおいて他にないだろう。作者は試験監督として教室を見渡しているわけだが、「机低過ぎ高過ぎて」とは言い得て妙だ。普段の教室ならば、背の高い順に後方から並ぶとか、生徒たちは何らかの規則的な配列で着席するので気にならないが、入試では受験番号順の着席になるから、背丈の凸凹が目立つのである。試験は試験の句でも、監督者の視点はやはり受験生のそれとはずいぶんと違っていて興味深い。ということは「大試験」の「大」の意識やニュアンスも、立場によって相当な差があることになる。受験生の「大」は合否の方向に絞られるが、監督者のそれは合否などは二の次で、とにかくトラブル無しに試験が終了することにあるということだ。いまの時期は、大試験の真っ最中。今年はとくに寒さが厳しいし、インフルエンザの流行もあって、受験生とその家族は大変だろう。月並みに、健闘を祈るとしか言いようがないけれど。『避暑散歩』(1973)所収。(清水哲男)


February 1022006

 春炬燵男腕組みして眠る

                           中村与謝男

語は「春炬燵(はるごたつ)」。春になっても、まだ使っている炬燵のこと。今年はとくに寒い日がつづくので、しまっていないお宅は多いことだろう。でも、寒いとはいっても、真冬とは違って、室内の温度はだいぶ高くなってくる。そこでつい、とろとろと眠気に誘われる。この「とろとろ」気分が、実に快適なんですよね。掲句の「男」も気持ちよく眠ってしまったわけだが、しかし「腕組み」は相変わらずほどかずにいると言うのだ。さきほどまで、何かを思案していたのだろうか。そんな思案への緊張感を保ったままで眠っている男の姿に、作者はそれこそ「男」を見たのである。とろとろうとうとしているというのに、何もそんなに肩肘張った姿勢のままでいることもあるまいに……。とも思うのだが、他方では眠ってもなお緊張の姿勢を解かないところに、男というもののありようを強く感じさせられて、共感を禁じ得ないでいるわけだ。そんなに大袈裟なシーンではないけれど、この句には、おそらく男同士でないとわからない一種の哀感が漂っているのだと思う。それは、かつて流行した歌「人生劇場」の文句じゃないが、「♪男心は男じゃなけりゃわかるものかと……」の世界に通じていく哀感だ。もはや「男気」などという言葉すらもが聞かれなくなって久しいが、こういうかたちでそれが残っていることに着目した作者の眼力は冴えている。まだまだ「男はつらいよ」の世の中は継続中なのだ。『楽浪』(2005)所収。(清水哲男)




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