本日の看板の写真は昨年春に撮った母。88歳。すぐ手の届くところにいろいろ置いてある。




2006ソスN2ソスソス15ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

February 1522006

 馬鹿に陽気な薬屋にいて四月馬鹿

                           清水哲男

生日特権(笑)で、ご迷惑は承知の助で拙句をお読みいただく。新しい句にしたかったのだけれど、何も浮かんでこない。「68歳かあ……」と、何度も陰気につぶやくばかり。仕方がないので、時期外れながら掲句を。八年前の余白句会(1998年3月)に持っていった句だ。自注をつけるほどの句じゃないし、幸い騒々子(井川博年)のレポートがあるので、あわせて読んでください。「巷児の天。騒々子の人。マツモトキヨシのような今風な薬屋でとまどっている男。バカとバカが重なってさらに馬鹿。新しい、面白い。巷児師が天に入れた訳です。バカは東京人の口癖だ、と京都人の道草がぽつり。この句よりも点の入った『砂を吐く浅蜊のごとく猫ねむる』は貨物船、裏通、青蛙の地。うるさ方が点入れている。選後、作者の、猫ってぐしゃっとした感じで眠ってるじゃない、との説明あり。猫に詳しい訳はあとでわかる。/赤帆・清水哲男、2月に地元の吉祥寺に新しく生まれた出版社・出窓社より詩の本『詩に踏まれた猫』を出す。帯にある「ネコとマゴの詩にロクなものはない」には笑ってしまった。巻末の「猫と現代」という猫好き女性との座談会が傑作。この本で4月12日の「朝日新聞」の読書欄「著者に会いたい」コーナーに登場。それにしても、顔写真の下にある 〔清水哲男さん(60)〕とは! 清水哲男、還暦なり」。ああ、八年前は還暦だったのか、それにまだ貨物船(辻征夫)が元気にしゃべってたんだ。などと思うと、八年前でももはや茫々の感がある。トシを取るのが嫌になってくる。時間よ、止まれ。『打つや太鼓』(2003)所収。(清水哲男)


February 1422006

 やけに効くバレンタインの日の辛子

                           三村純也

語は「バレンタインの日(バレンタインデー)」。すっかり定着した感のあるバレンタインの日。最初のころにはもぞもぞしていた俳人たちも、やっと最近では自在に扱うようになってきた。掲句も、その一つ。夕食の料理に添えて出された「辛子(からし)」が、普段とは違って「やけに効く」。思わず、妻にそのことを言いかけて止めたのだろう。そういえば、今日は「バレンタインの日」であった。もしかすると、日頃の行状の意趣返しとばかりに、チョコレートの代わりに辛子で何らかのきつい意思表示をされたのかもしれない。咄嗟にそう思ったからだ。いや、でもそんなはずはない。それは当方の思い過ごしというもので、第一,最前から彼女の様子を見ていると,今日が何の日であるかも忘れているようではないか。いや、でも待てよ。そこが、そもそも変だぞ。今日がどういう日かは、朝からテレビでうんざりするほどやっているし、ははあん、やつぱりこの辛子の効きようは尋常じゃない。だとすれば、何を怒っているのか。いったい、このオレに何を気づかせようというのだろうか。いや、それが何であれ、いまいちばん必要なのは冷静になることだ。それには、いつも通りに知らん顔して食べることだ。それにしても、よく効くなあ、この辛子……。などと、たまたまバレンタインの日であったがための取り越し苦労かもしれない「男はつらいよ」篇でした。『俳句手帖2006年春-夏』(富士見書房)所載。(清水哲男)


February 1322006

 鳩舎繕ふ少年二月の陽を帽に

                           皆川盤水

語は「二月」で春。私にそのチャンスはなかったが、戦後の一時期、少年たちの間で伝書鳩を飼うのが流行ったことがある。そのころの句だ。だから格別に珍しい情景でもないのだけれど、少年の持つ一途さを捉えていて秀逸な句だ。陽が射しているとはいえまだ寒い二月の戸外で、少年が一心に「鳩舎」を修繕している。このときの「帽」は学生帽でなければならないが、「陽を帽に」で、少年が俯き加減で繕っていることがわかる。つまり、熱中している様子がよく伝わってくる。勉強やら家の仕事やらには不熱心でも、こういうことになると、たいがいの少年は夢中になるものだ。無償の行為であり、その行為が自分に何をもたらすかなどは、一切考えない。ただひたすらに、行為のなかに沈み込み没頭するのみなのである。同世代の少女たちと比較すれば、馬鹿みたいに子供っぽく見えるけれど、少年は開かれた分別よりも閉ざされた自分だけの世界を愛するのだから仕方がない。学校に行っても、鳩のことばかり考えている。かつて少年であった作者にはそうしたことが理解できるので、微笑しつつ少年の一所懸命さを眺めているのだ。鳩を飼う少年といえば、大島渚のデビュー作『愛と希望の街』(1959)が思い出される。主人公の少年は貧しさゆえに、鳩の帰巣本能を利用した詐欺商売を思いつく。街頭で鳩を売り、買った人が鳩を放てば少年の鳩舎に戻ってくるので、それをまた売ればよいという計算だ。映画の大きなテーマとは別に、少年が一心に育てた鳩に全幅の信頼を寄せている姿が実に切ない。『積荷』(1964)所収。(清水哲男)




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