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February 1722006

 春めきて沢庵うまき膳に坐す

                           前島長路

語は「春めく」。春めいてきたことへの喜びを、まるで鷲づかみにしたような詠みぶりが好もしい。骨太い句だ。ごく日常的な朝餉の膳だろう。うまい「沢庵(たくあん)」と熱々の味噌汁と、そして炊きたてのご飯とおかずが一品ほど……。もうこれくらいで十分に満足なのは、やはり春めいてきた陽気のおかげなのであり、そしてなによりも作者が健康であることの証左でもある。どこにもそんなことは書いてないけれど、この句にはこれから表に出て行く張り切った気持ちも滲んでいる。遊びに行くわけじゃない。いつものようにいつもの仕事のために出かけるだけなのだが、その気分が春めいてきたことによって高められているわけだ。「春めく」の句には、たとえば飯田蛇笏の「春めきてものの果てなる空の色」のように繊細で抽象的な佳句が多いなかで、掲句のごとくずばりと具象性を貫いた句は案外に珍しいし、読後すぐに腑に落ちて気持ちが良い。うまい沢庵といえば、子供の頃のは自家製だったし、他にうまいものの味を知らなかったせいもあるのだろうが、やはりうまかった。食事がすんでから、一切れ齧ってお茶を飲んだときのあの味を、もう一度味わってみたいとは思うけれど、最近はうまい沢庵がないのが残念だ。『俳諧歳時記・春』(1968・新潮文庫)所載。(清水哲男)




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