日本の数学研究ピンチの報道。日本人の頭が弱くなったのではなく金銭的な不遇のせいだ。




2006ソスN5ソスソス19ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

May 1952006

 日をにごり棒で激しくたたく鶏

                           高岡 修

季句。ただ「日をにごり」という措辞からすると、梅雨時の蒸し蒸しとした午後の一刻がイメージされる。むろん、想像句だろう。決して愉快な句ではないけれど、この情景も人間の持つ一面の真実を表現している。どろんとした蒸し暑さのなかで、不意に湧いてきたサディスティックな衝動。その衝動のおもむくままに、そこらへんにいた罪もない無心の「鶏(とり)」を棒で激しくたたいている。そして、このこと自体はフィクションであっても、「たたく」という行為は覚えのあるものなので、句のイメージのなかに入り込んだ作者は、自分の発想に惑乱しているのだ。鶏相手の打擲(ちょうちゃく)だから、力の優位性は一方的なのであるが、一方的であればあるほど、たたく側に生まれてくるのは一種の恐怖心に近い感情である。少年時代に短気だった私はよく腹を立て、小さくて弱い子をたたいたこともあるので、たたいているうちに湧いてくる恐怖心をしばしば味わった。凶暴な自分に対する恐れの気持ちも少しはあるが,それよりもこのまま狂気の奈落へと転落してしまいそうな、曰く言い難い滅茶苦茶な心理状態に溺れていきそうな恐怖心だった。掲句は、そうしたわけのわからない人間の感情的真実を、一本の棒と一羽の鶏とを具体的に使うことで、読者に「わかりやすく」手渡そうとしているのだと読んだ。『蝶の髪』(2006)所収。(清水哲男)


May 1852006

 背を流す人を笑いて母薄暑

                           大菅興子

語は「薄暑(はくしょ)」で夏。句集から察するに、作者のご母堂はいわゆる「認知症」の方のようだ。介護の「人」に、入浴させてもらっている。でもその「母」は、何が可笑しいのか、その「人」のことを笑っているのだ。この笑いは、もしかすると「嗤い」に近い無遠慮な「笑い」なのかもしれない。このような事情と状況からして、夜ではなく、まだ明るい時間の入浴だろう。表は汗ばむような陽気で、ときおり緑の風も心地良く吹いている。これで母が何事もなく健康でいてくれさえしたら、もうそれ以上望むことなどは何もないのに……。作者のやり場のない思いが、哀感とともにじわりと伝わってくる。作者をよく知る鈴木明(「野の会」主宰)が掲句について、句集の序文で次のように書いており、この解説にも感銘を受けた。「この利己的ともいえる母を作者は許している。母の老いを切なく許すのだ。しかもけっして人には言えぬこと。しかし俳句という定型詩がその彼女を解放する。老いた母親同様に自由の精神を彼女にふるまう。ここで思っていても言えなかったことを俳句で言えたのだ。そのことで、いままで見えなかった精神世界がひらかれたと、私は思う。興子俳句はこうして前進する。真に、文芸のめざす視野がひらけてくる」。俳句ならではの表現領域が確かにあることを、この文章で再確認させられたことであった。『母』(2006)所収。(清水哲男)


May 1752006

 もめてゐるナイターの月ぽつねんと

                           清水基吉

語は「ナイター」で夏。和製英語だ。英語では「night game」と言う。なんとなく「er」をくっつけて、英語っぽい表現にすることが好まれた時代があった。六十年安保のころには「スッター」だの「マイター」だのという言葉すらあったのだから、笑ってしまう。おわかりでしょうか。いずれも学生自治会用語で、「スッター」は謄写版でビラを印刷する(刷る)人のこと、「マイター」はそうして印刷されたビラを街頭で撒く人のことだった。さて、掲句は「ナイター」見物の一齣だ。昔の後楽園球場だろうか。ドームはなかった時代の句だから、当然空も見えている。審判の判定をめぐってか、あるいは今で言う「危険球」か何かをめぐってか、とにかくグラウンドで「もめてゐる」のだ。おそらくはどちらかの監督の抗議が執拗で、なかなか引き下がらない。最初のうちはどう決着がつくのかと注視していた作者も、そのうちに飽きがきたのだろう。もうどうでもいいから、早くゲームを再開してくれ。そんな気持ちでグラウンドから目を離し、なんとなく空を見上げたら、そこには「ぽつねんと」月がかかっていた。地上の野球とは何の関係もない月であるが、目の前のもめ事に醒めてしまった作者の目には、沁み入るように見えたにちがいない。大袈裟な言い方かもしれないが、このときの作者には一種の無常観が芽生えている。確かに大観衆のなかの一人ではあるのだけれど、一瞬ふっと周囲の人間がみなかき消えてしまったような孤独感。そんな味の滲み出た佳句である。『清水基吉全句集』(2006)所収。(清水哲男)




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