今日は久しぶりに銀座。40年前には事務所があって毎日通った街だが、もはや懐かしい。




2006ソスN5ソスソス29ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

May 2952006

 草刈女朝日まぶしく人を見る

                           西村公鳳

語は「草刈女(くさかりめ)」で夏、「草刈」に分類。牛馬の飼料や堆肥にするために、草刈は夏の大切な農作業の一つだった。たいていは、早朝に刈ったものだ。朝早くのほうが草が濡れているので、鎌が使いやすいということもあるが、それよりも日が高くなると暑いからという理由のほうが大きいだろう。主に、女性の仕事だった。この句は、そんな草刈の一場面だ。早朝なのでめったに人も通らないから、たまに通りかかると、鎌の手を休めて「誰かしらん」と顔を上げるのである。すると、朝の低い太陽が目に入って「まぶしく」、ちょっと目をしばたかせながら「人」、つまり作者を見たのだった。いかにも農村の朝らしい、清々しくも人間味のある情景ではないか。草刈といえば、坪内稔典が近著の『季語集』(2006・岩波新書)に、こんなことを書いている。「かつて私が勤務していた京都教育大学では、年に二度、教職員と学生が総出でキャンパスの草刈りをした。乏しい予算をカバーするためにはじまった草刈りだが、予算のことなどを忘れ、みんなが半日の草刈りを楽しんだ」。この件を読んで、私は少年期に同じような体験をしたことを思い出した。ただし「総出」でではなく、似たような学校の事情からだったと思うが、それぞれの生徒に草を刈って学校に持参するようにと「宿題」が出た。みんな文句の一つも言わずに持っていったけれど、あれらの草を売った代金はいくらぐらいになって、何のために使われたのだろうか。父兄にはおそらく報告があったのだろうが、いま、不意にそれを知りたくなった。けっこう重労働だっもんなあ……。『新歳時記・夏』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)


May 2852006

 クレヨンの黄を麦秋のために折る

                           林 桂

語は「麦秋、麦の秋」で夏。子どものころの思い出だ。ちょうど今頃の田園風景を写生していて、一面の麦畑を描くのに「クレヨンの黄」を頻繁に、しかも力を込めて描いていたので、ポキリと折れてしまった。「しまった」と思ったが、もう遅い。仕方なく、折れて短くなったクレヨンで描きつづけたのだろう。短いクレヨンは描きにくいということもあるが、子どもにとってのクレヨンは貴重品だから、まずは折ってしまったそのことに、とても動揺したにちがいない。それが証拠に、大人になっても作者はこうして、麦秋の季節になるとそのことを思い出してしまうのだから……。そんな子ども時代の失敗も、しかしいまでは微笑しつつ回顧することができる。過ぎ去れば、すべて懐かしい日々。年齢を重ねれば重ねるほどに、この思いは強くなってゆく。そういえば、昔のクレヨンは色数が少なかった。私の頃には、せいぜいが10色か12色。なかには6色なんてのも、あったっけ。だから、折ってしまうと余計に悲しくなったわけだが、私の娘の小学生時代になると、色数も増え豪華になった。娘がはじめてクレヨンを買った日に、私はしばらくうっとりと眺めた記憶がある。『銅の時代』(1985)所収。(清水哲男)

{掲句の解釈}読者の方から、わざとクレヨンを折って、すなわちエッジを立てて麦の穂を描いた。と、体験談をいただきました。そうですね、「麦秋のために」の「ために」は、「わざわざ」という意味を含みますから…。「麦秋のせいで」と解釈した私の解釈は、ゆらいできました。


May 2752006

 柿若葉青鯖売りの通りけり

                           田中冬二

語は「柿若葉」て夏。花よりも葉の美しさを愛でる人が。圧倒的に多い植物だ。この葉が土蔵の横あたりで光りだすと、まさに「夏は来ぬ」ぬ実感がわく。そこに、寒い間は足が遠のいていた「青鯖売り」が通りかかった。やっと陽気がよくなったので、遠い山道を歩いてやってきたのだ。これからいつもの夏のように柿の葉陰で荷を開くのだろう。まだ青鯖は見えていないのだけれど、作者はもう、柿の青葉に照り映える鯖の青さを感じている。私にも体験があるのでわかるのだが、山国に暮らす人には、とりわけ海の魚の色は目にしみるものだ。このように田中冬二は色使いの上手な詩人で、たとえば「雪の日」という短い詩は。次のように書き出されている。「雪がしんしんと降つてゐる/町の魚屋に/赤い魚青い魚が美しい/町は人通りもすくなく/鶏もなかない 犬もほえない……」。揚句とは季節感が大いに異なるが。「雪の白」と「魚の青や赤」の対比が、実に良く効いている。『鑑賞現代俳句全集・第十二巻』(1981)所載。(清水哲男)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます