昼間はミンミンゼ蝉アブラ蝉法師蝉の大合唱。夜ともなれば秋の虫が賑やかに。(哲




2006ソスN8ソスソス23ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

August 2382006

 露人ワシコフ叫びて石榴打ち落す

                           西東三鬼

十代の後半に、三鬼の「水枕ガバリと寒い海がある」という句に偶然出会って、私は驚嘆した。脳震盪を起こした。そして西東三鬼という奇妙な名前の俳人が忘れられなくなった。俳句侮るべからず、と認識を新たにさせられた。さっそく角川文庫『西東三鬼句集』を探しはじめ、1年がかりで探し当てたときは、まさに「鬼の首」でもとったような感激だった。定価130円。掲出句は「水枕・・・」の句を冒頭に収めた句集『夜の桃』に収められている。ニヒリスト、エトランジェ、ダンディズムなどという形容がつきまとう三鬼ならではの斬新な風が、この句にも吹いている。同時にたくまざるユーモアがこの句の生命であろう。白系ロシア人で隣に住んでいたというワシコフ氏はいったい何と叫んでいたのか? 肥満体の露人は五十六、七歳で一人暮らし。せつなさと滑稽がないまぜになっている。赤く熟した石榴を、竿でムキになって打ち落としている光景は、作者ならずとも思わず足を止め、寒々として見惚れてしまいそうだ。ここはやはり柿や栗でなく、ペルシャ・インド原産の石榴こそふさわしい。外皮が裂けて赤い種子が怪しく露出している石榴と、赤い口をゆがめて叫ぶ露人の取り合わせ。尋常ではない。『夜の桃』(1950)所収。(八木忠栄)


August 2282006

 踊らねば只のししむら踊りけり

                           行方克巳

つかは見たいと願っている盆踊りも、岐阜郡上八幡の郡上踊りが終わり、秋田羽後の西馬音内盆踊りが終わり、富山八尾のおわら風の盆を残すばかりとなった。結局今年もまた、どの思いも叶わぬまま夏が終わる。しかし、元来盆踊りとは、盂蘭盆の行事であり、死者を供養するためのものであることを考えると、ゆかりのない土地の盆踊りを「見に行く」とはたいへん奇妙なことにも思う。踊りのさなか、風土はそこに暮らす人間を固く結びつけ、一方日常を遠くに引き離していく。句にある「ししむら」とは、肉の塊のことである。踊らぬ手足は単なる肉塊なのだという。この乱暴な断定が、自分の身体をことさら他人事のように眺め、また目の前に躍動する四肢の魅力をはちきれんばかりに輝かせる。踊り続けることで、肉体はますます個人から離れ、今やしなやかに呼吸する風土の一部となっている。しかし、この甘美な闇をさまよう肢体は、翌朝にはまた綿々と続く日常を歩く、ただの肉塊に戻らねばならない。「踊りけり」と強く言い切ることで、心のどこかで願う狂気を振り払い、わずかに日常との接点を保ちつつ踊り続けるのである。『祭』(2004)所収。(土肥あき子)


August 2182006

 石投げて帰省の川となりにけり

                           杉本憲治

語は「帰省」。俳句では夏休みの帰省をさすことから夏の季語とするが、実際には旧盆中やその前後に帰る人が多いので、暦の上では秋ということになる。昨日あたりまでは、故郷に戻っていた読者もおられるだろう。私にも何度も体験があるけれど、帰省先の時空間に溶け込むためには、いつもある程度の時間がかかった。たとえば学生になりたての帰省であれば、わずか四ヶ月ほどのご無沙汰でしかないのに、それでもなかなかしっくりとは来ないものだ。つい最近まで慣れ親しんでいたはずの環境なのに、どこかにギクシャクとした違和感を覚えてしまう。それはおそらく、もはや帰省先には自分の暮らしというものがないからだろう。そこで暮らしていれば、なんでもない平凡な風景なども、暮らしていない者にはよそよそしく見えたりする。こんなはずではなかったのにと、帰省するたびに感じたものだった。句の作者も、そんな違和感のなかにいたのだと思う。それでも懐かしさに引きずられて、あちこち近所を散策していると、そのうちに川べりに出た。子供時代には、みんなとよく遊んだ川なのだ。で、思わずも当時と同じように、小石を拾って川に投げてみた。その瞬間である。さきほどまでの違和感が、嘘のようになくなっていることに気がついたのだった。石を投げるという他愛もない身体的行為が、作者を暮らしのあったころの時空間に引き戻したわけである。すなわちかつては、石を投げることも暮らしの立派な一部だったのだ。こうして作者は、やっと故郷に溶け込むことができた。あらためて周囲を見渡すと、そこにはごく平凡な風景が広がっているばかり。「ああ、帰ってきたんだ」。ここではじめて、作者は「帰省」できたのだった。『現代俳句歳時記・夏』(2004・学習研究社)所載。(清水哲男)




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