早くも「安倍内閣」の人事の噂。ついに戦争を知らない子供たち政府の誕生だ。(哲




2006ソスN9ソスソス11ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

September 1192006

 梨の肉にしみこむ月を噛みにけり

                           松根東洋城

者は漱石門、大正期の作品だ。季語は「梨」で秋。「肉」は「み」と読ませていて、むろん梨の「実」のことであるが、現代人にこの「肉」は違和感のある使い方だろう。「肉」と言うと、どうしても私たちは動物のそれに意識が行ってしまうからだ。しかし、昔から「果実」と言い「果肉」と言う。前者は果物の外観を指し、後者はその実の部分を指してきた。だから、梨畑になっているのは「実」なのであり、剥いて皿の上に乗っているのは「肉」なのだった。この截然たる区別がだんだんと意識されなくなったのは、おそらく西洋食の圧倒的な普及に伴っている。いつしか「肉」という言葉は、動物性のものを指すだけになってしまった。東洋城の時代くらいまでの人は、植物性であれ動物性であれ、およそジューシーな食感のあるものならば、ともに自然に「肉」と意識したのだろう。言語感覚変質の一好例だ。冷たい梨をさりさりと食べながら、ああ、この肉には月の光がしみこんでいるんだなと感得し抒情した句。なるほど、梨は太陽の子というよりも月の子と言うにふさわしい。ただ、こうしたリリシズムも、この国の文芸からはいまや影をひそめてしまった。生き残っているとすれば、テレビCMのような世界だけだろう。現代の詩人が読んだとしら、多くは「ふん」と言うだけにちがいない。抒情もまた、歳を取るのである。『東洋城全句集』(1967)所収。(清水哲男)


September 1092006

 秋の日が終る抽斗をしめるように

                           有馬朗人

き出しがなめらかに入るその感触は、気持のよいものです。扉がぴたりとはまったときや、螺子が寸分の狂いもなく締められたときと同じ感覚です。そのような感触は、あたまの奥の方がすっと感じられ、それはたしかに秋の、乾いた空気の手触りにつながるものがあります。抽斗は「ひきだし」と読みます。「引き出し」と書くと、これは単に動作を表しますが、「抽斗」のほうは、「斗」がいれものを意味しますから、入れ物をひきだすというところまでを意味し、より深い語になっています。「秋の日」、「終る」、「抽斗」と同じ乾き方の語が続いたあとは、やはり「閉じる」よりもさわやかな、「しめる」が選ばれてよいと思います。抽斗をしめることによって、中に閉じ込められたものは、おそらくその日一日のできごとであるのでしょう。しめるときの振る舞いによって、その日がどのようなものであったのかが想像できます。怒りのちからで押し込むようにしめられたのか、涙とともに倒れこむようにしめられたのか。箱の中で、逃れようもなく過ごしてきた一日は、どのようなものであれ、時が来れば空はふさがれ、外からかたく鍵がかけられます。掲句の抽斗は、激することなく、静かにしめられたようです。とくに大きな喜びがあったわけではないけれども、いつものなんでもない、それだけに大切な、小箱のような一日であったのでしょう。『新選俳句歳時記』(1999・潮出版社)所載。(松下育男)


September 0992006

 月一輪星無數空緑なり

                           正岡子規

の句を、と『子規全集』を読む。この本、大正十四年発行とありちょっとした辞書ほどの大きさで天金が施されているが、とても軽くて扱いやすい、和紙は偉大だ。そしてこの句は第三巻に、明治三十年の作。満月に近いのだろう、月の光が星を遠ざけ、空の真ん中にまさに一輪輝いている。さらにその月を囲むように星がまたたく。濃い藍色の空に星々の光が微妙な色合いを与えていたとしても、月夜の空、そうか、緑か。時々、自分が感じている色と他人が感じている色は微妙に違うのではないかと思うことがあるが、確かめる術はない。しかし、晩年とは思えない穏やかな透明感のある子規の絵の中で、たとえば「紙人形」に描かれた帯の赤にふと冷たさを感じる時、子規の心を通した色を実感する。明治三十五年九月十九日、子規は三十五年の生涯を閉じる。虚子の〈子規逝くや十七日の月明に〉の十七日は、陰暦八月十七日で満月の二日後、そして今日平成十八年九月九日は、本来なら陰暦八月(今年は閏七月)十七日にあたる。前出の虚子の句が子規臨終の夜の即吟、と聞いた時は、涙より先に句が出るのか、と唖然としたが、もし見えたら今宵の月は十七日の月である。ただし、今年は閏七月があるため、暦の上の名月は来月六日とややこしい。ともあれ、月の色、空の色、仰ぎ見る一人一人の色。『子規全集』(1925・アルス)所載。(今井肖子)




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