R句

October 15102006

 秋の夜ことりと置きしルームキー

                           高山きく代

ームキーという言葉は、自宅よりもホテルを思い起こさせます。生活スタイルにもよるでしょうが、わたしの場合、自宅の鍵をわざわざルームキーなどと英語で言うことはありません。しかし、この句はどうも、ホテルの部屋という印象がもてません。ホテルの、透明で大きな棒のついている鍵では、置いたときの音は、「ことり」ではすむはずもありません。この鍵はやはり、自宅用の、なんの飾りもついていないもののように思われます。秋の夜、遅くなって、一人住まいの部屋に帰ってきたのでしょうか。冷え始めた季節の空気とともに、この部屋の主は帰宅し、まずは鍵を台所のテーブルに置くのです。それまでだれもいなかった部屋に、久しぶりに人のたてる音がします。「ことり」という音は、響きは小さくとも、音として明確にその意味を主張しています。その日、どんな出来事に翻弄されようとも、鍵をあけ、部屋に入ってからは、その人だけの別の時間が流れ始めます。扉によって外部を締め出してから、その人にとっての確かな「時」がはじまるのです。「ことり」という音は、そのはじまりの、ささやかな宣言のようにも聞こえます。『角川俳句大歳時記 秋』(2006・角川書店)所載。(松下育男)




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