文化庁選出の『親子で歌いつごう 日本の歌百選』。九十曲以上は歌えるかな。(哲




2007ソスN1ソスソス16ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

January 1612007

 森番に革命の歌山眠る

                           松橋昭久

命とは、国家や社会の組織の急激な変革をいうとある。「革命」という言葉で、血がたぎるような興奮を覚える世代はいつ頃までなのだろう。おそらく、理想に燃えて学生運動に深く関わった世代だろうか。革命に関わり、勝利を手にしたものが幸福を得るとは限らない。掲句では「森番」という、現役や世俗から遠く離れた厭世的な姿が、すべてを象徴している。森番の過去に何があったというのだろう。しかし、彼には繰り返し口にする歌がある、それだけで充分なのだと思い直す。森番は満天の星を背負い、暗く大きな口を開けているような冬の山へ向かって、子守唄を聞かせるようにいつまでも低く歌うのだろう。「山眠る」とは、中国『臥遊録(がゆうろく)』の「冬山惨淡(さんたん)として眠るが如し」を出典に持つ、山の静かに深く眠るような姿を擬人化させた季語だが、ここではじっと無言で森番の歌に聞き入る同志のようなたたずまいがある。たったひとつきり繰り返す革命の歌を思うとき、彼の過去がほんの少しだけ顔を出す。『雪嶺』(2006)所収。(土肥あき子)


January 1512007

 女正月帰路をいそぎていそがずに

                           柴田白葉女

語は「女正月(おんなしょうがつ・めしょうがつ)」。一月十五日を言うが、まだこんな風習の残っている地方があるだろうか。昔は一日からの正月を大正月と呼び、男の正月とするのに対して、十五日を中心とする小正月を女の正月と呼んでいた。正月も忙しい女たちが、この日ばかりは家事から解放され、年始回りをしたり芝居見物に出かけたり、なかには女だけで酒盛りをする地方もあったようだ。子供のころ暮した田舎では、小正月を祝う風習はあったとおぼろげに記憶しているが、女正月のほうはよく覚えていない。母にまつわる記憶をたどってみても、松の内が過ぎてから出かけることはなかったような……。我が家に限らず、昔の主婦はめったに外出しないものだった。出かけるとすれば保護者会か診療所くらいのもので、遊びに出るなどは夢のまた夢。田舎時代の母は、おそらく映画などは一度も見たことがなかったはずだ。どこかから借りてきた映画雑誌を読んでいた母の姿を、いま思い出すと、切なく哀しくなってくる。そんな生活のなかで、作者の住む地方には女正月があり、大いに羽をのばした後の「帰路」の句だ。いざ家路につくとなると、日頃の習慣から足早になってしまう。みんなちゃんとご飯を食べただろうか、風呂はわかせたろうか、誰か怪我でもしてやしないか等々、家のことが気になって仕方がない。つい「いそぎて」しまうわけだが、しかし一方では、今日はそんなに急ぐ必要はない日であることが頭に浮かび、「いそがずに」帰ろうとは思うものの、すぐにまた早足で歩いている自分に気がついて苦笑している。こうした女のいじらしさがわかる人の大半は、もう五十代を越えているだろう。世の中、すっかり変わってしまった。『新歳時記・新年』(1990・河出文庫)所収。(清水哲男)


January 1412007

 人参は赤い大根は白い遠い山

                           辻貨物船

物船忌、1月14日です。新聞記事で辻征夫さんの死亡を知り、急ぎ通夜に向かった日のことを思い出します。もう7年も前のことになります。辻さんとは若いころに、詩の雑誌の投稿欄の選者として、一年間ご一緒したことがあります。投稿の選評が終わった後に、小さな雑誌社の扉を開け、夜の中にすっくと立つ背筋の伸びた辻さんの姿を、今でも思い出します。「貨物船」から降ろされた多くのすぐれた詩は、深い情愛に満ちたものばかりでした。隙(すき)のない詩や小説の「余白」に書き付けられたであろう俳句は、しあわせに力の抜けた場所での創作だったのでしょう。掲句、冬の清新な空気と、ほっとする心持を読むものに与えてくれるものであります。人参、大根ともに、旬の冬が季語です。手元には、細かく切り刻み、酢であえた膾(なます)が、ひざの前に置かれています。その膾へ、そっと差し出す箸の動きを想像します。箸の先には実生活と格闘する辻さんがいて、片手にはウイスキーのコップを持っています。ウイスキーを飲みながら見つめる先には、「創作」の遠い山が見えていたのでしょうか。酔った口からいくらでも出てくる文学談を、若かったわたしは、目を輝かせて聞いていたのでした。「松下君、詩もいいけど、俳句というものも、すごいよ」。辻さんの声が今でも、すぐ近くから聞こえてくるようです。『貨物船句集』(2001)所収。(松下育男)




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