実際には一年で最も寒い月の始まりのはずですが、東京はすっかり春めいて……。(哲




2007ソスN2ソスソス1ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

February 0122007

 鴨沢山呼んであります来ませんか

                           ふけとしこ

は普段でも目にする鳥だが、1月から4月にかけて越冬のためシベリア付近から飛来するという。マガモ、オナガ、コガモ、同じ鴨でもよく見ると首の長さや身体の大きさに違いがあることがわかる。春近い陽射しを受けて鴨達の羽根がきれいに光っている。池に群れている鴨は誰かに呼ばれて来ているわけではないが、こう書かれてみると鴨好きのあなたのために作者が集めてくれたみたいだ。こんな俳句が載った吟行案内のハガキを受けとったら、何を置いてもいそいそと出かけそう。例えば男の子がこの句の案内を見れば、レストランに可愛い女の子達が肩をぶつけあいながら座っている場面を想像するかもしれないし、狩猟好きのおじさんなら鉄砲をかついですぐさま出掛けて行きそうだ。読み手の立場で楽しい想像がいくらでも広がっていく。このふくらみは呼びかけの間の小休止が切れとして効果的に効いているからだろう。そして「鴨」は生活に密着したところで様々な成語になっているので、読み手の連想によって多義的な表情を見せることができる。動植物に親しい作者は、彼らの生態とともにその名前が多彩なイメージを生み出す秘密を知っているようだ。「仏の座光の粒が来て泊まる」『ふけとしこ句集』(2006)所収。(三宅やよい)


January 3112007

 己がじし喉ぼとけ見せ寒の水

                           安東次男

月五日から節分までの30日間くらいを「寒の内」と呼ぶ。一年間で最も寒さが厳しい季節である。したがって「寒の水」はしびれるほどに冷たく、どこまでも透徹している水。この句がどういう状況で詠まれたかは定かでないが、男たちが数人だろうか、顎をあげ、殊更に喉ぼとけを見せるようにして澄みきった冷たい水を、乾いた喉にゴクゴクと流しこんでいる。喉ぼとけは、たまたまそこに見えていたのだろうが、作者があえて「見せ」と捉えたところにポイントがある。水を飲む音も聴こえてくるようであり、あたかも己を主張するかのように、おのおのの飲み方をしているふうにも見える。とがった「喉ぼとけ」と透徹した「寒の水」の取り合わせは凛然としていて、寸分の弛みもない。いかにも背筋がピンと張った安東次男の句姿である。実際、ご自身も凛としていながら、やさしさのにじむ人柄だった。平井照敏編『新歳時記・冬』には「寒中の水は水質がよいとして、酒を作り、布をさらし、寒餅を作り、化粧水を作る」とある。水道水はともかく、寒中に掬って飲む井戸水のおいしさは格別である。安東次男の句集は、名句「蜩といふ名の裏山をいつも持つ」を収めた『裏山』の他『昨』『花筧』『花筧後』などがある。労作『芭蕉七部集評釈』について、「全部、食卓の上でやった仕事だよ」といつか平然と述懐しておられた。喉ぼとけの句というと、どうしても日野草城の「春の灯や女は持たぬのどぼとけ」という句を想起せずにはいられない。句の情景は対蹠的であり、次男句には男性的色気さえ感じられるし、草城句からは女性のエロチシズムが匂い立ってくるように感じられてならない。『花筧』(1992)所収。(八木忠栄)


January 3012007

 また一羽加はる影や白障子

                           名取光恵

崎潤一郎の『陰翳礼讃』を持ち出すまでもなく、白障子のふっくらとした柔らかい光線の加減こそ、日本人の座敷文化の中核をなすといえよう。障子や襖(ふすま)などの建具が冬の季語であることに驚く向きも多いだろうが、どれも気温を調節し、厳しい寒さの間はぴったりと閉ざし、春を待つものとすると考えやすいかと思う。障子といえば、私のようないたずら者には、影絵遊びや、こっそり指で穴を作る快感などを思い浮かべるが、掲句の障子の影に加わる一羽は、庭に訪れた本物の小鳥だろう。というのは、句集中〈検査値の朱き傍線日雷〉〈十日目の一口の水秋初め〉など闘病の句に折々出会うことにより、仰臥の視線を感じるためだ。しかし、どれも淡々と日々を綴っている景色に、弱々しさや暗さはどこにもない。庭に訪れた小鳥の輪郭を障子越しに愛で、来るべき春の日をあたたかく見守る作者がそこにいる。冬来たりなば春遠からじ。あらゆることを受け入れている者に与えられた透明な視線は、障子のあちら側で闊達に動く影に、自然界の厳しさのなかで暮らす力強い鼓動を読み取っている。純白の障子は、凶暴な自然界と、人工的にしつらえられている安全な室内との結界でもある。『水の旅』(2006)所収。(土肥あき子)




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