転覆したマグロ漁船の三人が無事救助された。よく頑張ったと、こちらまで嬉しい。(哲




2007ソスN2ソスソス13ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

February 1322007

 四匹飼えば千句与えよ春の猫

                           寺井谷子

所の雑司が谷墓地に恋する猫たちが闊歩する季節となった。「恋猫」「孕み猫」「子猫」と、春の歳時記にあふれる猫の句を前に、飼い猫たちを「一体どうなのよ」と眺めている作者の視線が愉快な掲句である。もちろん、猫の方は我関せずの態を崩さず、顔など洗っているのだろう。愛玩動物として飼われる猫が大半になった現在、俳句にペットを持ち込むことは、吾子俳句、孫俳句同様、舐めるような愛着を見せられては敬遠されることは必定で、例句がふんだんにあるわりに、新しい猫の句を誕生させることは難しい。そこへいくと掲句には、意表をつく「千句与えよ」という大上段に構えた表現と、そこに込められた明らかな諦観がユーモラスな笑いにつながってゆく。また、猫を飼っている読者も「一匹につき250句かあ」などと詮無い割り算ののち、やはりそれぞれの飼い猫を眺め、その「まるっきり関係ありません」的な態度に肩をすくめていることだろう。漫画「サザエさん」には、縁側で猫をからかいながら「よごれ猫それでも妻は持ちにけり」とくちづさむ波平に、カツオとマスオが「おとうさん、それは犬のほうが…」などといいように添削され、「一茶の句だ」と一喝する場面がある。俳句を趣味とする波平にも250句与えてくれたとは思えないサザエさん家のタマであった。『母の家』(2006)所収。(土肥あき子)


February 1222007

 早春や藁一本に水曲がり

                           田中純子

者がのぞき込んだのは、小川とも言えない細い水の流れだろう。道路に沿った排水溝(側溝)のようなところか。そこに藁しべが一本引っかかっていて、よく見ると、流れてきた水がその藁に沿って曲がって流れていると言うのだ。当たり前といえば、当たり前。まことにトリビアルな観察句だけれど、作者をしてこの句を生ましめた背景には、まことに大きな自然との交流がある。私にも覚えがあって、気候が温暖になってくると、人の目は自然と水に向うようだ。べつに風流心があったわけではないけれど、田舎での少年時代には、学校帰りにしばしば立ち止まって小川をのぞき込み、小さな魚影や蟹たちなどの動きに見惚れたものだった。冬の流れなんぞは、暗くて冷たそうで見向きもしなかったのに、猫柳が少しずつ膨らんでくるころになると、水を見るのが楽しくなってくるのである。これから日に日に暖かくなるぞという予感が、そうさせたのだと思う。揚句の作者もまた、春の足音に背中を押されるようにしてのぞき込んでいる。キラキラと光りながら流れている水が、ちっぽけな藁一本を迂回していく様子に、やがて訪れてくる陽春への期待感と喜びの気持ちを重ね合わせている。なんとはなしに、ほのぼのとしてくる一句だ。『新版・俳句歳時記』(2001・雄山閣出版)所載。(清水哲男)


February 1122007

 豆腐屋の笛もて建国の日の暮るる

                           岡崎光魚

和をノスタルジーの対象にする最近の風潮には、多少の抵抗があります。しかし、気がつけばわたしも昭和を、懐かしく思い出していることがあります。掲句、「豆腐屋の笛」という言葉を目にして、そういえば昔、そんな音を聞いたことがあったなと思いました。あの、どこか気の抜けた金属的な音が、耳の奥で蘇ります。当時の家は、今ほど密閉性にすぐれていませんから、家の中にいても道端の音がはっきりと聞こえてきました。笛の音と、「とーふぃー」という間延びのした声を聞くと、割烹着すがたの母親が鍋をかかえて外に急いだものです。たしかに当時の家は、今よりもずっと外と緊密につながっていました。扉も今のようにいくつも鍵がかけられていたわけではありません。外部というのは、必ずしも防ぎとめる対象ではありませんでした。時に「さおだけー」だったり「いしやきいもー」だったり、ラーメンのチャルメラだったり、家の玄関の延長のような場所で、物売りがのんびりと通り過ぎたものです。今日の句を読んで真っ先に目に浮かんだのは、昭和の懐かしい風景でした。道端を通り過ぎる豆腐屋の向こうの、広々とした原っぱに夕日が沈もうとしています。そんな懐かしさの只中に、「建国」という重い言葉が置かれています。しかし、神武天皇がその昔即位した日にしろ、一日はただの一日です。市井の人々にとっては、国を作ることよりも切実な出来事があり、その日もいつもと変わらずに、豆腐屋の笛を合図に、何事もなく暮れてゆくのです。『角川大歳時記 春』(2007・角川書店)所載。(松下育男)




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