四方田犬彦「先生とわたし」(新潮3月号)は400枚の力作。学者の人間関係も難しい。(哲




2007ソスN2ソスソス14ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

February 1422007

 雪崩るゝよ盆地の闇をゆるがして

                           藤沢周平

語は「雪崩るゝ」で春。雪崩はちょろちょろとしたほんの小規模のものから、天地をゆるがすような大雪崩までいろいろである。大雪だったのだろう、ようやく春を迎えようという時季に、寝静まった盆地の村の闇の夜をゆるがすような雪崩が突如起こる。「ゆるがして」といっても、盆地の一村が埋まってしまうほどの大規模のものではあるまい。しかし、盆地の斜面をドドドーッとずり落ちる雪崩の音に、安眠を破られた住人たちの驚きが暗闇のなかに見え隠れしている。静かな闇をゆさぶり起こす、まさに白い軍団。それでも、「雪崩るゝよ」の「よ」が、雪崩がそれほどスケールの大きいものではないことを物語っている。いったん目を覚まされた者も再び眠りに就き、おっとりした者は寝床のなかで「今夜も、またか」などと呟いて再び白河夜船か。手もとの歳時記に「雪崩です沈みゆく白い軍艦です」(田中芥子)というモダンな俳句が載っていて、ちょっと気になった。ほほう、軍艦ですか? 時代小説の名手藤沢周平は若い頃、野火止川近くの病院で療養中に賞味一年半ばかり、誘われて俳句を作ったことがあった。振りかえって「作句の方はのびなかった」「才能に見切りをつけた」とエッセイに書いている。「軒を出て狗寒月に照らされる」などは時代小説の一齣を思わせるが、やはり大立ち回りというよりは淡々と詠んだ句が多い。俳句は作るよりも読むほうにウエイトを置いたらしい。人事よりも自然のほうに心動かされたという。のちに小説「一茶」を書き、舞台化もされた。『藤沢周平句集』(1999)所収。(八木忠栄)


February 1322007

 四匹飼えば千句与えよ春の猫

                           寺井谷子

所の雑司が谷墓地に恋する猫たちが闊歩する季節となった。「恋猫」「孕み猫」「子猫」と、春の歳時記にあふれる猫の句を前に、飼い猫たちを「一体どうなのよ」と眺めている作者の視線が愉快な掲句である。もちろん、猫の方は我関せずの態を崩さず、顔など洗っているのだろう。愛玩動物として飼われる猫が大半になった現在、俳句にペットを持ち込むことは、吾子俳句、孫俳句同様、舐めるような愛着を見せられては敬遠されることは必定で、例句がふんだんにあるわりに、新しい猫の句を誕生させることは難しい。そこへいくと掲句には、意表をつく「千句与えよ」という大上段に構えた表現と、そこに込められた明らかな諦観がユーモラスな笑いにつながってゆく。また、猫を飼っている読者も「一匹につき250句かあ」などと詮無い割り算ののち、やはりそれぞれの飼い猫を眺め、その「まるっきり関係ありません」的な態度に肩をすくめていることだろう。漫画「サザエさん」には、縁側で猫をからかいながら「よごれ猫それでも妻は持ちにけり」とくちづさむ波平に、カツオとマスオが「おとうさん、それは犬のほうが…」などといいように添削され、「一茶の句だ」と一喝する場面がある。俳句を趣味とする波平にも250句与えてくれたとは思えないサザエさん家のタマであった。『母の家』(2006)所収。(土肥あき子)


February 1222007

 早春や藁一本に水曲がり

                           田中純子

者がのぞき込んだのは、小川とも言えない細い水の流れだろう。道路に沿った排水溝(側溝)のようなところか。そこに藁しべが一本引っかかっていて、よく見ると、流れてきた水がその藁に沿って曲がって流れていると言うのだ。当たり前といえば、当たり前。まことにトリビアルな観察句だけれど、作者をしてこの句を生ましめた背景には、まことに大きな自然との交流がある。私にも覚えがあって、気候が温暖になってくると、人の目は自然と水に向うようだ。べつに風流心があったわけではないけれど、田舎での少年時代には、学校帰りにしばしば立ち止まって小川をのぞき込み、小さな魚影や蟹たちなどの動きに見惚れたものだった。冬の流れなんぞは、暗くて冷たそうで見向きもしなかったのに、猫柳が少しずつ膨らんでくるころになると、水を見るのが楽しくなってくるのである。これから日に日に暖かくなるぞという予感が、そうさせたのだと思う。揚句の作者もまた、春の足音に背中を押されるようにしてのぞき込んでいる。キラキラと光りながら流れている水が、ちっぽけな藁一本を迂回していく様子に、やがて訪れてくる陽春への期待感と喜びの気持ちを重ね合わせている。なんとはなしに、ほのぼのとしてくる一句だ。『新版・俳句歳時記』(2001・雄山閣出版)所載。(清水哲男)




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