April 042007
肩越しにふりむくと/背後は桜の花に/覆われていた
アレン・ギンズバーグ
アレン・ギンズバーグはアメリカのビート派を代表する詩人。彼には『Mostly Sitting Haiku』(1978)という句集が一冊あるが、まだ日本では訳句集として刊行されていない。掲出句は中上哲夫訳。原文は「Looking over my shoulder/my behind was covered/with cherry blossoms」。桜の花を特別なとらえ方をしているわけでも、技巧をこらして詠んでいるわけでもない。背後をふりむいて、ぎっしりといちめんに咲いている桜に圧倒された、その驚き。毎年桜を観ている私たち日本人とはちがった強いショックを、ギンズバーグは当然覚えただろう。中上によれば、英文学者R.H.ブライスに『俳句』四巻本があるとのこと。掲出句には、1955年に「バークレー市にある小屋で『俳句』を読みながら作った俳句」というギンズバーグの前書きが付いている。代表作「HOWL」を書いた翌年である。あるインタビューで「黒い表紙の俳句の本が宝物だったよ」と語っている。ケルアックやスナイダーらも、さかんに俳句を作ったことはよく知られている。ケルアックの死後に出版された『俳句の本』(2003)には八百句近くが収められているとのこと。詩・禅・俳句――それらは彼らの精神のなかで緊密に連関していた。掲出句からおよそ20年後のギンズバーグに「鼻にとまった蝿よ/わたしは仏陀ではない/そこに悟りはないよ」(中上哲夫訳)という、ユーモラスで禅的な俳句がある。蛇足ながら、1988年10月に、シルバーのネクタイをしめたギンズバーグが砂防会館のステージに登場したとき、私は興奮のあまりからだが震えた。「現代詩手帖特集版・総特集=アレン・ギンズバーグ」(1997)所載。(八木忠栄)
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