May 032007
體内を抜ける爆音基地展く
三谷 昭
軍用機ジェットの離着陸の音。地続きでありながら壁の向こうに広がる土地は治外法権の場所である。空を見上げる作者の身体を爆音が貫いてゆく。基地展くは「ひらく」と読むのだと思うが、おそらく米軍基地拡張を意味しているのだろう。講和条約締結以降在日米軍使用延長と基地拡大に対する反対闘争が、各地で起こっていた。その中でも最大規模のものは基地の測量を強行しようとする国側とデモ隊が衝突した砂川事件だった。基地内へ入ったと、逮捕された人達に対する判決。それは日米安保体制と平和憲法の矛盾を突く裁判でもあった。駐留を許容した政府の行為を「平和憲法の戦争放棄の精神に悖る(もとる)のではないか」と9条違反を主張し、被告は無実とした地裁の判決は最高裁で、「安保条約は司法判断に適さない」と差し戻され有罪判決が下される。以後憲法と基地の矛盾は法の外側に置かれてきた。三谷昭は戦前西東三鬼、平畑静塔とともに「京大俳句」弾圧事件で特高に逮捕された苦い経験を持つ。軍用機の爆音が頭上を過ぎる一瞬、作者の身を貫いてゆくのはやり場のない悲しみと怒りだったろう。政治的な主義主張を前面に押し出さない表現だからこそ、読み手はこの句を自分の感覚に引き寄せ現在に重ねてみることができる。今日は憲法記念日。この句から半世紀を経た今も日常のすぐそばで基地は機能し続け、憲法9条はその存続自体が危ぶまれている。『現代俳句全集 4巻』(1958)所載。(三宅やよい)
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