May 152007
代田より這ひ来て吾を生せる母
小原啄葉
作者は1921年、岩手県生れ。今よりほんの少し昔の農村では、農閑期に受胎し農繁期に出産することが多かった。そして10歳をかしらに5人の子供というような、すさまじい育児を繰り返してきたのだ。少子化とは何なのだろうかと今一度考えてみる。前回の国勢調査で出生率は過去最低の1.26人であったと発表されている。いわく子供を育てる環境が整わない、働く女性への配慮が足りないなど、不満や不安は限りない。しかし掲句を前にしたとき、それらの言葉のなんと脆弱であることか。代田とは苗を植えた際、発育が良くなるように田の面を掻きならす代掻きが済んだ田のこと。この作業はかつて非常な労力を必要としたという。産み月まで労働を強いられてきた女たちの過酷な日々を感じつつも、掲句には弱音を一切受け付けないようなほとばしるパワーがある。私を含め、出産や育児に対して気弱な女性が増えた昨今、大いなるエールを与えるには、政府が打ち出す「次世代育成支援対策推進法」や「教育再生会議」の親切めいた子育て指南でうんざりさせるより、過去の母親がなしてきた姿を見せてくれたほうがよほどこたえる。女たちはいつの時代も力強く子を生み、育ててきた。どんな時代であろうと果敢に挑戦せよと、過去をさかのぼる何百何千という日本の母親たちの手に触れたようなぬくもりと厳しさを一句に感じている。『平心』(2006)所収。(土肥あき子)
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