高齢者の自殺が増えている。断言するがほとんどは生活苦からだ。調べずとも判る。(哲




2007ソスN6ソスソス8ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

June 0862007

 わが金魚死せり初めてわが手にとる

                           橋本美代子

魚が死んだ。長い間飼っていたので犬や猫と同様家族の一員として存在してきた。死んだ金魚を初めて掌に乗せた。触れることで癒されたり癒したりするペットと違って、一度も触れ合うことのない付き合いだったから、死んで初めて触れ合うことが出来たのだった。空気の中に生きる我等と、水中に生きる彼等の生きる場所の違いが切なく感じられる。この金魚は季題の本意を負わない。夏という季節は意味内容に関連してこない。この句のテーマは「初めてわが手にとる」。季題はあるけれど季節感はない。そこに狙いはないのである。もうひとつ、この素気ない読者を突き放すような下句は山口誓子の文体。「空蝉を妹が手にせり欲しと思ふ」「新入生靴むすぶ顔の充血する」の書き方を踏襲する。誓子は情感を押し付けない。切れ字で見せ場を強調しない。下句の字余りの終止形は自分の実感を自分で確認して充足している体である。作者のモノローグを読者は強く意識させられ自分の方を向かない述懐に惹き入れられる。橋本多佳子の「時計直り来たれり家を露とりまく」も同じ。誓子の文体が脈々と繋がっている。講談社『新日本大歳時記』(2000)所載。(今井 聖)


June 0762007

 赤ん坊のかなしみ移る赤ん坊

                           和泉香津子

育所や小児科の待合室で隣り合わせた赤ん坊の一人が泣き始めると、じっとその様子を見ていた近くの赤ん坊の目が潤み、真っ黒な瞳にみるみる涙がせりあがってくるそんなシーンが想像される。言葉がまだ話せない赤ん坊だからこそ、喜び、怒り、苛立ち、といった感情はストレートに伝わるのだろう。風邪のように、かなしみが「移る」と表現したところに発見がある。夜泣きしている赤ちゃんも抱っこしているお母さんがイライラしているとよけい激しく泣く。赤ちゃんは柔らかい身体全体に感情を探知するアンテナを持っているみたいだ。掲句の中心になるのは「赤ん坊」という初々しい生命体に宿る「かなしみ」という感情だろうが、ひらがな書きのこの言葉に漢字を当てるとしたらどれだろう。漢和辞典を調べてみると「哀」は心に哀れさを生じさせる感情で反対語は「楽」になっている。「悲」はものに感じて心がせつなく思う気持ち、不幸などに遭って泣きたくなる気持ちで反対語は「喜」になっている。赤ん坊の状態を思うと、どちらも当てはまるようにも思うが、「悲しみ」が近いだろうか。今まで母親の胎内にしっかり抱かれていた赤ん坊にとっては一人で寝かされることもかなしみの種なのだろうか。おしめも濡れていない、ミルクもやったばかりの赤ん坊が理由もなく泣き出すのは空漠とした世界に生み落とされた心細さに耐えかねて泣いているのかもしれない。『現代俳句12人集』(1986)所載。(三宅やよい)


June 0662007

 噺家の扇づかひも薄暑かな

                           宇野信夫

座での噺家の小道具は扇子一本・手拭一本のみである。いわば武士にとっての刀のようなもの。(昔はってえと、噺家は「扇子一本・舌三寸の稼業」とよく言われましたな。)楽屋の符牒で扇子のことを「かぜ」と呼び、手拭のことを「まんだら」と称する。本来は暑いから扇子を使うわけだが、高座での機能は少々ちがっていて、それだけにとどまらない。暑さ寒さにかかわらず、いや真冬でも高座で扇子をバタバタ開いては閉じる癖のある噺家がいた(三笑亭夢楽)。噺のリズムをとっていたように思われるが、近年の高座ではそういう姿を見かけなくなった。もっとも、クーラーがよくきいているんだもの。小道具としての扇子は煙管、徳利、盃、手紙、刀、杖、鋏、櫓・・・・さまざまなものを表現する。手拭も同様である。風を起こすにせよ、噺のなかの小道具として使われるにせよ、さすがに初夏の高座での扇子の使われ方には、いつもとは微妙にちがった風情が感じられるし、さて、演し物は・・・という期待も新たにわく。そんな客席からの気持ちが扇子一本にこめられた一句である。初夏ともなれば、噺家の着物も絽や紗などに替わり、寄席の掛軸も夏にふさわしいものに替えられる。もちろん噺のほうも夏らしい「青菜」「百川」「あくび指南」、怪談噺・・・・きりがない。高座で使われる扇子は通常私たちが使うものよりも小ぶりで骨も少ない。古今亭志ん朝は純白な扇面よりも、多少くすんだ色のものをと神経をつかっていた。そのほうが高座に馴染む。落語にも造詣の深かった演出家らしい洒脱な句である。『文人俳句歳時記』(1969)所収。(八木忠栄)




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