lce句

June 1662007

 傘ひらく未央柳の明るさに

                           浜田菊代

央柳(びようやなぎ)、美容柳とも書き、別名美女柳。柳に似た細い葉を持つこと、輝くような五弁の黄色の花に、長い蕊が伸び広がり、いかにも美しいことからこの名が付けられたという。確かに葉は地味でふだんは見過ごしているが、街角の植え込みや線路脇など、梅雨時の街のあちこちを彩っている。そんな華やかさを、明るい、と詠むのはためらわれるものだ。しかも、びようやなぎ、の六音は、字余りを避ければ中七に置かざるを得ず、美女柳、と五音で詠まれることも多いだろう。この句の場合、傘ひらく、という何気ない動作が、日々の暮らしの中にあるこの花らしさを表していると同時に、雨に濡れて金色に光る蕊を揺らして見せる。軽い切れがあることで、びようやなぎ、という六音のなめらかな呼び名が生き、明るさに、がさりげない。それにしても、とふと思った。柳に似た葉を持つ美しい花、なら、美容柳でいいだろう、未央って?こういう一瞬の疑問に、インターネットは便利である。検索すると未央は、玄宗皇帝が、かの楊貴妃と暮らした未央宮に由来するという。白居易の長恨歌に、楊貴妃亡き後ここを訪れた玄宗皇帝が、池の辺の柳を見て楊貴妃の美しい眉を思い出す、というくだりがあるとか。通勤途中に見慣れたこの花の名に、そんな由来があるのだと思うと、その明るさが少し切ない。『花の大歳時記』(1990・角川書店)所載。(今井肖子)




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