毎日新聞の「ボートマッチ」を試してみた。ぴたりと一致。当たり前か(笑)。(哲




2007ソスN7ソスソス25ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

July 2572007

 夏帽子頭の中に崖ありて

                           車谷長吉

帽子というのは麦わら帽、パナマ帽などが一般的とされるけれど、ここでは妙にハイカラな帽子でなければ特にこだわらないでいいだろう。夏帽子そのものは何であれ、作者は帽子に隠された「頭の中」をモンダイにしている。「頭の中」に「崖」があるというのだから穏かではない。長吉の小説の世界にも似てすさまじい。断崖、切り岸が頭の中にあるという状態は、それがいかなる「崖」であれ、健やかなことでない。頭の中に切り立つひんやりとした崖には、怪しい虫どもがひそんでいるかもしれないし、たとえば蛇が垂れさがったり、這いずりまわったりしているかもしれない。今にも崩れそうな状態なのかもしれない。とにかく、そんな「崖」が頭蓋の中、あるいは想念の中に切り立っている状態を想像してみよう。尋常ではない。帽子をかぶっているとはいえ外はかんかん照りで、頭の中も割れそうなほどに煮えくりかえっているのだろう。暑さのせいばかりではあるまい。この句は長吉の自画像かも、と私は勝手に推察する。いや、人はそれぞれ自分の頭の中に、否応なく「崖」を持っていると言えないだろうか。「崖などない」と嘯くことのできる人は幸いなるかな。長吉の俳句を「遊俳」(趣味的な俳句)と命名したのは筑紫磐井である。「やや余技めいた、浮世離れした意味で理解される」(磐井)俳句、結構ですな。長吉には「頭の中の崖に咲く石蕗の花」という句もある。石蕗はどことなく陰気な花である。『車谷長吉句集・改訂増補版』(2005)所収。(八木忠栄)


July 2472007

 もう少しの力空蝉砕けるは

                           寺井谷子

の一生は地中で7年、地上で2週間といわれている。なかには地中暮らしが13年、17年などという強者もいるが、それでもやはり地上の命は同じようにわずかなものだ。蝉という昆虫を感傷的に捉える理由は、この地上での命の短さにあるが、空蝉(抜け殻)が与える視覚的な衝撃も大きく影響しているように思える。無事蝉となった抜け殻を手に乗せそっと握るとき、ふと力を込めて壊してしまいたい衝動にかられる。それは深い渓谷に片足だけそっと差し出す行為にも似て、「しないけれどしてみたらどうだろう」と思うだけで心が騒ぐ。抜け殻なのだから、よもや粉々に壊してしまったとしても、それを残酷な行為とはいえないだろう。しかし、わずかな力の付加を思い留まらせているのが、蝉そのものの形、それも祈るような姿のまま凍り付いている物体への哀憐であろう。わずかな命と引き換えに羽を得た生き物は、その抜け殻さえも殉教者の衣のように神々しく思える。一方、それを引き裂いてしまいたいと思う危うい心に、さまざまなしがらみの中で生きていかねばならぬ人間の悲しいほどまっとうな感情を覚えるのだ。『母の家』(2006)所収。(土肥あき子)


July 2372007

 割り算の余りの始末きうりもみ

                           上野遊馬

でもそうだろうが、苦手な言葉というものがある。私の場合は、掲句の「始末」がそうである。辞書で調べると、おおまかに四つの意味があって、次のようだ。(1)(物事の)しめくくりを付けること。「―を付ける」(2)倹約すること。「―して使う」(3)結果。主として悪い状態についていう。「この―です」(4)事の始めから終わりまで。……ところが私には、どうも(2)の意味がしっくり来ない。そのような意味で使う地方や環境にいなかったせいだと思う。小説などに出てくると、しばしば意味がわからずうろたえてしまう。この句の「始末」も(2)の意味なのだろう。が、一読、やはり一瞬うろたえた後で、やっと気がつき、はははと笑うような「始末」であった。要するに「きうりもみ」は、「割り算の余り」の部分を「倹約」したような料理だということのようだ。どうしても割り切れずに余った部分は、紙の上の割り算であれば放置することも可能だけれど、それでもそれこそ割り切れない思いは残るものである。ましてや、現実の食べ物であるキュウリにおいておや。ならば、他の料理の使い余しのキュウリは、「始末」良く「きうりもみ」にして食べてしまおう。そう思い決めて、せっせと揉んでいるところなのである。「(胡)瓜揉み」なる夏の季語があるほどに、昔は一般的な料理だったが、いまの家庭ではどうなのだろうか。あまり作らないような気もするが、むろんこれは掲句と関係のない別の問題だ。俳誌「翔臨」(第59号・2007年6月)所載。(清水哲男)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます