TR句

August 2582007

 取り入るゝ傘一と抱き秋の蝶

                           亀山其園

の句は、句集『油團』から引いた。何となく本棚を見ていて、この油團(ゆとん)に目がとまったのだった。そういえば昔我が家にもあった、和紙を貼り合わせて油を塗ったてらてらとした固い夏の敷物である。素十の前書きに「其園(きその)さんは女で、早く父母に死に別れ、傘張りの家業を継いで弟妹の教育をなし遂げた感心な人です。」とある。その後に、戦後しばらくは傘屋も繁盛したが、洋傘に押され廃業、お茶屋を始め、俳句半分、商売半分で暮らしている、と続いている。店先でのんびりお茶を飲んで、買わずに帰ってゆく客を気にもとめない主人を見かねて、素十が書いた「茶を一斤買へば炉に半日ゐてもよろし 閑店主人」という直筆の貼り紙の写真が見開きにあり、たくましくもおおらかな其園という女性の人柄が偲ばれる。掲句、秋になると、天敵の蜂が減り、蝶は増えてくるのだという。萩や秋桜の揺れる中、秋風に舞う蝶は、空の青さに映えて美しく、秋思の心に響き合う憐れがある。秋晴れの一日、きれいに乾いた傘を抱えたまま足を止めている其園と、そこに来ている蝶の、小さな時間がそこにある。『油團』(1972)所収。(今井肖子)




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