January 012008
妻よ天井を隣の方へ荒れくるうてゆくあれがうちの鼠か
橋本夢道
あけましておめでとうございます。末永くよろしくの思いとともに、自由律の長〜い一句を掲句とした。子年にちなんで、ねずみが登場する句を選出してみたら、あるわあるわ150以上のねずみ句が見つかった。以前猫の句を探したときにもその数に驚いたが、その需要の元となるねずみはもっと多いのが道理なのだと納得はしたものの、現代の生活ではなかなか想像できない。しかし、〈長き夜や鼠も憎きのみならず 幸田露伴〉、〈新藁やこの頃出来し鼠の巣 正岡子規〉、〈鼠にジヤガ芋をたべられて寝て居た 尾崎放哉〉、〈しぐるるや鼠のわたる琴の上 与謝蕪村〉、〈寒天煮るとろとろ細火鼠の眼 橋本多佳子〉などなど、それはもう書斎にも寝室にも台所にも、家でも外でもそこらじゅうに顔を出す。どこにいても決してありがたくない存在ではあるが、あまりに日常的なため、迷惑というよりも「まいったなあ」という感じだ。掲句の屋根の上を走るねずみの足音にもにくしみの思いは感じられない。荒々しく移動していくねずみに一体なにごとが起きたのか、天井を眺めて苦笑している姿が浮かぶ。おそらく呼びかけられた妻も、また天井裏続きのお隣さんもおんなじ顔をして天井を見上げているのだろう。『橋本夢道全句集』(1977)所収。(土肥あき子)
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