January 132008
初しぐれ鳩は胸より歩き出す
久留島春子
しぐれにまで「初」がついているのかと、新年に寄せる日本人の思いをあらためて感じ入ります。しぐれは漢字で書けば「時雨」。冬にぱらぱらと降る通り雨のことですが、この漢字を「じう」と読めば「ちょうどよい時に降る雨」という意味を持ちます。「時雨心地(しぐれごこち)」となれば、「涙の出そうな気持ち」になります。さて、句はそんな情けない気持ちとは関係なく、年があらたまって初めて空から落ちてきた冷たい雨を詠んでいます。空を見上げたまなざしを下へもどせば、乾いた地面に雨の模様がつき始めた中を、鳩がおもむろに歩き出しています。その鳩の姿を、見たままに描いています。「初」の文字と「歩き出す」が、新年のことのあらたまりを感じさせます。それも鳩のように大きく胸を張ってという表現が、雨にもかかわらず前に進んで行こうという気概を表しています。それでも句は、全体におちついていて静かな空気を感じさせます。小さな動物に目を凝らすという、そんな行為のやさしさが、おそらく観察の根底にあるからです。『観賞歳時記 冬』(1995・角川書店)所載。(松下育男)
November 172015
たのしくてならぬ雀ら初しぐれ
坂本謙二
ある日、外出先で猫じゃらしを踏み台にして飛び比べをする4〜5羽の雀を目撃した。遊びに夢中でしばらく私が見ていることにも気づかぬ様子で、ピチピチと鳴き声をあげながら、順番に猫じゃらしに飛び移る。ああ、その頃スマホがあればこっそり動画を撮っていたのに、と悔やんでいた。しかし掲句を見て、そんな機会はたびたび訪れるのかもしれないと思い直した。欣喜雀躍という言葉もあるではないか。私事ながら先日引越しをして、多摩川の堤を散策するのが日課となった。遊び好きの雀たちに会える日も近いような気がする。『良弁杉』(2015)所収。(土肥あき子)
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