ンR句

January 3112008

 山々をながめて親を手放す日

                           佐藤みさ子

きてゆく限り人間は一人。日々「家族」に囲まれて孤独を紛らわせていても、いつか親は子と別れ、子は老いた親を見送る日が来る。「手放す日」とは親との永遠の別れの日なのか、親を他所へ送り出す日なのか。いずれにせよ子供を独立させるのとは違うやるせなさが漂う。「山々をながめて」という何気ない行為が親を手放すという尋常ならざる出来事とつながっていることで日常に隠されている恐ろしさ、さびしさを際立たせる。俳句の季語のように共通普遍なイメージを喚起させる言葉の力学を用いない川柳は、普段の言葉で日常の深い裂け目を書いてみせる形式である。「味方ではないが家族が二、三人」「何ももう産まれぬ家に寝静まる」など、シニカルな視点で現代の家族の距離感や空白感が描かれている。親族の肩書きを持っていても心が離れれば近くにいて遠慮がないだけに致命的な戦いになってしまうこともある。ただならぬ関係のまま形だけ持続している家族だってあるだろう。いま、この世の中で家族とはどういう存在なのか。自らの身を時代の鏡にうつしだして語られる言葉は人が本来有している淋しさを感じさせるとともに私たちが身を置く人間関係の痛い部分に直に触れてくるようだ。『呼びにゆく』(2007)所収。(三宅やよい)




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