久しぶりの金子兜太さん。「あなたの身体は70代前半」と医者に言われたと。(哲




2008ソスN2ソスソス28ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

February 2822008

 椿落ちて椿のほかはみなぶるー

                           小宅容義

の春と呼ばれる二月の空は明るく、それでいて冬の冷たさをとどめた美しい色をしている。真っ赤な椿が地面に落ちたあと、椿を見ていた視線を空に移したのか、それとも水際にある枝から水面へ花が落ちたのか。作者の目に青が大きく広がる。ついさっきまで咲き誇っていた花が何の前触れもなく首ごともげて地面に落ちる。その突然の散り方が、椿が落ちたあとの空白を際立たせる。散る椿に視点を置いて詠まれた句は多いが椿が散ったあとの空白を色で表現した句はあまりないように思う。ブルーではなく「ぶるー」と平仮名で表記したことで今までに自分が見た水色が、空色がつぎつぎ湧き上がってくる。ヘブンリー・ブルー、ウルトラマリン、群青色、などなど、どの「ぶるー」が赤い椿に似合うだろうか。それとも「ぶるー」は色ではなく椿を見ている人の気分だろうか。いったん緩んだ寒気がぶり返したこの頃だとぶるっとくる、体感的な寒さも思われる。リフレインの音のよろしさと最後のひらがなの表記が楽しい。作者は大正15年生まれ。「鴨落ちて宙にとどまる飛ぶかたち」「新らしきほのほ焚火のなかに淡し」など時間の推移を対象に詠みこんだ句に魅力を感じた。『火男』(1980)所収。(三宅やよい)


February 2722008

 古書市にまぎれて無口二月尽

                           小沢信男

年は閏年(うるうどし)ゆえ二月は二十九日まである。とはいえ、二月の終わり、つまり二月尽である。まだ寒い時季に開催されている古書市であろう。身をすくめるようにして古書を覗いてあるく。汗だくの暑い時季よりも、古書市は寒いときのほうがふさわしい。買う本の目当てがあるにせよ、特にないにせよ、古書探しは真剣そのものとなってしまう。連れ立ってワイワイしゃべくりながら巡るものではあるまい。黙々と・・・・。運よく稀購本を探し当てても声はあげず、表情を少しだけそっとゆるめる程度だが、心は小躍りしている。リュックを背負ったりして、無口居士を決めこみ、時間をたっぷりかけて入念に探しまわる。そんな無口居士がひしめくなかに、自分もどことなくひそかに期待を抱いてまぎれこんでいるのだ。お宝探しにも似た、緊張とスリルがないまぜになったひとときであるにちがいない。ほしい本にはなかなか出くわさない。いっぽうで、もう二月が終わってしまうという、何となくせかされるような一種の切迫感もあるのだろう。ゆったりしたなかにも張りつめた様子が目に見えるようだ。歴史ものや調べものの著作が多い信男ならではの、思いと実感が凝縮されていながらスッと覚めている。無口といえば、信男には「冬の河無口に冬の海に入る」という句もある。掲出句は当初、ほんの62句だけ収めた句集『昨日少年』(1996)に収められた。句集と言っても、一枚のしゃれた紙の表裏に刷りこんで四つに畳んだもので、掲出句は〈春〉の部の二句目にならぶ。全句集『んの字』(2000)所収。(八木忠栄)


February 2622008

 あいまいなをとこを捨てる春一番

                           田口風子

週土曜日、2008年2月23日。関東地方では昨年より9日遅く春一番が吹いた。鉄道は運転を一時中止し、老朽化したわが家を揺らすほどの南風は、春を連れてくるというより、冬を吹き飛ばす奔出のエネルギーを感じる。だからこそ、過去を遮断し決断する掲句の意気込みがぴったりくるのだろう。先月末に〈春待つや愚図なをとこを待つごとく 津高里永子〉を採り上げたが、掲句がハッピーエンドの後に控えた後日談に思えてしかたがない。冬の間、かわいいと思った不器用な男も、春先になればなぜか欠点ばかりが見えてくる。なにもかもすてきに思えるロマンス期が過ぎて、恋愛の継続に不安や疑問が頭をもたげる時期に激しい春一番が背中を押してくれたようなものだ。しかし、春一番が吹いたあとは、寒冷前線南下の影響で必ず冷たい日々が待っている。捨てた女の方にだってすぐに幸せが待っているわけではない。どちらも本物の春を目指してがんばれ♪〈秋の声聞く般若面つけしより〉〈すひかづら後ろより髪撫でらるる〉『朱泥の笛』(2008)所収。(土肥あき子)




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