March 312008
星条旗はしたしみやすし雨の花
秋元 潔
天沢退二郎さんから詩人による俳句同人誌「蜻蛉句帳」36号(2008年3月17日付)が送られてきた。この一月に亡くなった尾形亀之助研究でも知られた詩人・秋元潔の追悼号である。別刷り付録に秋元潔句集『海』(1966・限定20部)からの抄出句集が付いていて、揚句はそのなかからの作品だ。詩人がまだ、中学生のころの句かと思われる。年代で言えば、1951年あたりだろうか。51年は講和条約調印の年。戦後も六年しか経っていない。当時の作者は基地の街ヨコスカに住んでいたので、星条旗は日常的に見慣れた旗だった。句ではその旗を「したしみやすし」と言っているが、この感情は戦中日本の初等教育を受けた者には、ごく自然なものだったのだろう。何に比べてしたしみやすかったのかと言うと、むろん日章旗に比べてである。アメリカの占領軍を解放軍ととらえた人たちも多かった時代だ。堅苦しく軍国主義的に育てられてきた少国民にとっては、彼らの自由さ奔放さはひどく眩しく見えたに違いないし、憧れもしただろうし、その象徴としての星条旗にしたしみを覚えた気持ちに嘘はないはずである。したがって、この句は文句なしのアメリカ讃歌であり憧憬歌であり、あれから半世紀を経た今にして読むと、その素朴な心情には微笑を誘われると同時に、しかしどこか痛ましい傷跡のようにも思われてくる。「雨の花」とは写生的なそれであるのは間違いないにしても、私にはなんだか少年・秋元潔の存在そのものでもあったように感じられてくるのを止めることができない。またこの句は上手とか下手とか言う前に、一つの時代の少年の素朴で自然な感情を詠んでいるという意味で貴重な記録となっている。他にも「早春はアメリカ国歌口ずさむ」「 WELCOME赤き文字なり風光る」など。(清水哲男)
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