April 122008
ふらここの影の止つてをりにけり
木村享史
ぶらんこ、とは考えてみればまことにそのまんまな名前である。ポルトガル語に由来するなど、その語源は諸説あるようだが、ぶら下がって揺れる様子から名付けられたという気が確かにする。広辞苑で「ふらここ」と引くと、「鞦韆」の文字と共に「ぶらんこ。ぶらここ。しゅうせん。」と出る。他に、半仙戯、ゆさわり、など、さまざまな名前を持つぶらんこが春季である本意は、四月三日の鑑賞文で三宅さんが書かれているように、のどやかでのびやかな遊具としての特性からだろう。春休みの間は一日中揺れていたぶらんこ。新学期が始まった公園では、ぶらんこを勢いよく漕ぐにはまだ幼い子供達とその母親に、ゆっくりした時間が流れている。昼どき、ベンチで昼休みを過ごす人に春の日がうらうらと差す。その日ざしは、葉の出始めた桜の葉陰からこぼれ、ジャングルジムにシーソーに、そしてぶらんこに明るい影を落としている。たくさんの子供達に、時にはおとなに、その名の通り仙人になったような浮遊感を与え続けているぶらんこの、しんとした影。春昼を詠んで巧みである。『夏炉』(2008)所収。(今井肖子)
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