昨夜「俳句界」五月号校了。この写真はゲラ待ちの間に撮った印刷所です。(哲




2008ソスN4ソスソス17ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

April 1742008

 つばな野や兎のごとく君待つも

                           鬼頭文子

色の穂がたなびく「つばな野」でうさぎのようにじっとうずくまって、あなたを待っていますよ。と愛しい人に呼びかけている。「君」は短歌でもおもに恋の歌に用いられる人称。「待つも」ととまどいを残した切れが、帰ってくるかどうかわからない人を待つ不安を反映させている。四月末から五月にかけて白い穂をたなびかせるつばな野は春の野に季節はずれの秋が出現したようで、不思議に美しい。遠くから見ると銀色に光る穂綿がうずくまる兔の背のように見えるだろう。膝下ぐらいの高さに群生するこの草が神社でくぐる「茅の輪」になるという。鬼頭文子の夫は絵の勉強のため単身フランスへ渡っていた。愛らしい兔に投影されている女の姿は不満を漏らさず男の帰りをじっと待つ女の愛のかたちでもある。「待つわ」という歌もあったが意地悪な見方をすれば、待っている自分のけなげさに酔っているようにも思える。待つ、待たれる男女の関係は今変化しているのだろうか。「春の風あいつをひらり連れてこい」とは20代の俳人藤田亜未の句集『海鳴り』(2007)の中の恋句。このような句を読むと湿りのない現代的な恋の感覚に思えるが、もう一方で「さくらんぼ会えない時間は片想い」と、呟くところをみると、半世紀を経ても、会えない時の心細さは文子と変わらないのかもしれない。『現代俳句全集』一巻(1958)所載。(三宅やよい)


April 1642008

 葉脈に水音立てて春キャベツ

                           田村さと子

ャベツは世界各地で栽培されているが、日本で栽培されるようになったのは明治の初めとされる。キャベツは歳時記では夏に類別されているが、葉は春に球形になり、この時季の新キャベツは水気をたっぷり含んでいて、いちばんおいしい。ナマでよし、炒めてよし、煮てよし。掲出句は、まだ収穫前の畑にあって土中から勢いよく吸いあげた水を葉の隅々まで行き渡らせ、しっかりと球形に成長させつつあるのだろう。春キャベツの勢いのよさや新鮮さにあふれている句である。葉脈のなかを広がってゆく水の音が、はっきりと聴こえてくるようでさえある。恵みの雨と太陽によって、野菜は刻々と肥えてゆく。このキャベツを、すでに俎板の上に置かれてあるものとして、水音を聴いているという解釈も許されるかもしれない。俎板の上で、なお生きているものとして見つめている驚きがある。「水音」と「春」とのとりあわせによって、キャベツがより新鮮に感じられ、思わずガブリッとかぶりつきたい衝動にさえ駆られる。先日見たあるテレビ番組――しんなりしてしまったレタスの株の部分を、湯に1〜2分浸けておくと、パリパリとした新鮮さをとり戻すという信じられないような実験を見て、野菜のメカニズムに改めて驚いた。もっともこれはキャベツには通用しないらしい。さと子はラテンアメリカをはじめ、世界中を動きまわって活躍している詩人で、掲出句はイタリア語訳付きの個人句集に収められている。ほかに「井戸水の生あたたかき聖母祭」「通夜更けて雨の重たし桜房」など繊細な句がならぶ。『月光を刈る』(2007)所収。(八木忠栄)


April 1542008

 戸袋に啼いて巣立の近きらし

                           まついひろこ

会の生活を続けていると、雨戸や戸袋という言葉さえ遠い昔のものに思える。幼い頃暮らしていた家では、南側の座敷を通して六枚のがたつく木製の雨戸を朝な夕なに開け閉てしていた。雨戸当番は子供にできる家庭の手伝いのひとつだったが、戸袋から一枚ずつ引き出す作業はともかく、収納するにはいささかのコツが必要だった。いい加減な調子で最初の何枚かが斜めに入ってしまうと、最後の一枚がどうしてもぴたりとうまく収まらず、また一枚ずつ引き出しては入れ直した泣きそうな気分が今でもよみがえる。一方、掲句の啼き声は思い切り健やかなものだ。毎日使用しない部屋の戸袋に隙を見て巣をかけられてしまったのだろう。普段使わないとはいえ、雛が無事巣立つまで、決して雨戸を開けることができないというのは、どれほど厄介なことか。しかし、やがて親鳥が頻繁に戸袋を出入りし始めると、どうやら卵は無事孵ったらしいことがわかり、そのうち元気な雛の声も聞こえてくる。雨戸に閉ざされた薄暗い一室は、雛たちのにぎやかな声によってほのぼのと明るい光が差し込んでいるようだ。年代順に並ぶ句集のなかで掲句は平成12年作、そして平成15年には〈戸袋の雛に朝寝を奪はれし〉が見られ、鳥は作者の住居を毎年のように選んでは、巣立っていることがわかる。鳥仲間のネットワークでは「おすすめ子育てスポット」として、毎年上位ランキングされているに違いない。〈ふるさとは菫の中に置いて来し〉〈歩かねばたちまち雪の餌食なる〉『谷日和』(2008)所収。(土肥あき子)




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