May 072008
ふるさとの笹の香を咬むちまきかな
小杉天外
ちまき(粽)は端午の節句の頃に作る。関東では柏餅。笹の葉で巻いて蒸したモチ米または団子である。笹の葉で包むと日持ちがいいばかりでなく、笹の香がおいしさをいっそう引き立てる。天外は秋田県の生まれ。ふるさとから送られてきたちまきは、格別なごちそうというわけではないけれど、笹の香に遠いふるさとの香り、ふるさとの様子をしばししのんでいるのだろう。「笹の香」ゆえに「食べる」というよりも「咬(か)む」とアクティブに表現したあたりがポイント。その香を咬めば、ちまきの素朴なおいしさばかりでなく、すっかりご無沙汰しているふるさとの懐かしい人々や、土地のあれこれまでが思い出されるのだろう。かつて笹だんごは家々で作っていたから、私は子どもの頃、裏山へ笹を採りに行かされた。白いモチ米で作ったちまきの笹をむいて、黄粉(きなこ)を付けて食べた。それよりも子どもたちには、なかにアンコが入り草餅で包んだ笹だんごのほうがおいしかった。砂糖の入手が困難だった戦時中は、アンコのかわりに味噌をなかに入れていたっけ。あれには妙なおいしさがあった。食べることもさることながら、祖母や母に教わりながら、慣れない手付きでゆでた笹でくるみ、スゲで結わえる作業に加わるのが、ヘタクソなくせに楽しかった。「越後の笹だんご」は名物として、私のふるさとの駅やみやげもの店で盛んに蒸篭でふかしながら売られているけれど、見向きもしなくなってしまった。夏目漱石の「粽食ふ夜汽車や膳所(ぜぜ)の小商人(こあきうど)」という句も忘れがたい。『文人俳句歳時記』(1969)所収。(八木忠栄)
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