May 172008
器ごと光つてをりぬさくらんぼ
小川みゆき
葉桜の間に、小さい桜の実がついている。熟すと赤紫になり舗道を染めたりするが、桜桃(おうとう)、いわゆるさくらんぼは、桜の実とは異なり、西洋実桜の実。昔は、桜の木にさくらんぼがならないのはなぜ?と思っていたが。その名の由来は、桜ん坊から来たとか、さくらももの転訛など諸説ある。桜桃は、ゆすらうめとも読むが、ゆすらうめというと子供の頃摘んでは食べた、赤褐色の小さな粒と甘酸っぱくて心持ちえぐい味がよみがえる。さくらんぼを摘んで食べる、という経験はなかったのだが、昨年、初めてさくらんぼ狩りというのを体験した。かなりの高木に、真っ赤な実が驚くほどたわわに実っているのを、次々とって食べる。天辺の方の、お日さまに近いところになっている実の方が甘いので、脚立で木に登る。この木の方が甘い、こっちの方が大粒、などと大のおとな達が夢中になった。そんなさくらんぼだが、かわいらしい名前と色や形に反して、果物としては高価である。きれいに洗って、ガラスの器に盛られたさくらんぼ。食べるのがもったいないような気分になってしばし眺めている。つやつやとした赤い実一つ一つについた水滴と器に初夏の日ざしが反射して、こんもりと丸い光のオブジェのようである。先だって、さくらんぼカレーというのが思いのほか美味、と聞いた。それこそもったいないような食べてみたいような。同人誌「YUKI」(2008・夏号)所載。(今井肖子)
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