ホ保夫句

June 2962008

 居るはづの妻消えてゐし昼寝覚め

                           平石保夫

通の読み方をするなら、この句はほほえましい光景として受け止められるのでしょう。連日のつらい通勤から、やっとたどり着いた休日なのに、勤め人というのはなぜか朝早く目が覚めてしまうのです。そのために昼過ぎにはもう、朝の元気は消えうせ、眠くて仕方がありません。腕枕をしながらテレビでも見ようものなら、5分とたたずに眠ってしまいます。いつもなら、「こんなところで邪魔ねえ」と、早々に起こされるところが、なぜか今日はぐっすり眠らせてもらえたようです。なんだか頭の芯まですっきりするほどに眠ってしまったのです。窓の外を見れば、すでに夕暮れが訪れてきています。部屋の電気も消え、まわりには何の物音もしません。どうしてだれもいないのだろうと、だるい体で考えをめぐらせているのです。読みようによっては、「消えて」の一語が、ちょっとした恐怖感をかもし出しています。でも奥さんは単に、夕飯の買い物にでも出かけたか、あるいは何かの用事があって外出しているだけなのでしょう。さびしさとか、取り残されているとか、そんな感じの入り込む余地のない、おだやかで、堅実な日々のしあわせを、この句から感じ取れます。『鑑賞歳時記 夏』(1995・角川書店)所載。(松下育男)




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