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October 13102008

 爽やかや弁当の箸忘れをり

                           浅見 百

を忘れたのは小学生くらいのお子さんだろう。句集には、この句の前に「子育ての右往左往に水澄めり」と載っている。普通の日なら学校給食があるので、今日は秋の遠足か運動会か。いずれにしても、子供にとっては愉しかるべき日のはずだ。天気もすこぶるつきの上天気。その爽やかさに作者も気分良く背伸びなどをしているときに、食卓の上に忘れられている箸に気がつき、はっとした。こういうときの親心は、むろん届けてやろうという具合に動く。作者にもかつて箸を忘れた体験があるわけで、あの不便さったらない。私などは仕方がないから、鉛筆を箸代わりにしたものだが、食べにくいし、第一格好が悪い。だから一瞬届けてやろうと気持ちは動いたのだが、しかし作者は「まあ、いいか。何とかするだろう」とそのままにしておくことにした。すなわちこの句の面白さは、天候によって人の気持ちに差異が出ると言っているところだ。これがしとしとと雨の降っている日だったりすると、同じ状況でも、心の動きは違ってくる。とても「爽やか」なので、そんなに深刻には考えないのである。晴天には総じて心をゆったりと持つことができ、悪天候だとくよくよとなりがちだ。そのあたりの人情の機微がさりげなく詠まれていて、いまの私も、なんだか爽やかな気持ちになっている。『時の舟』(2008)所収。(清水哲男)


July 1572010

 蛍待つ誰も小声になつてをり

                           浅見 百

か4年前の7月15日。増俳10周年記念句会のときに高点に選ばれた句と記憶している。私も選ばせていただきました。ハイ。「蛍」の題は難しかった。清水さんがこの題を決めたのは神保町のビヤホール「ランチョン」で、折しも「蛍の光」が流れている閉店前だったように思う。10年続いた増俳の終了と、蛍がぴかんと一致して清水さんの頭にひらめいたのかもしれない。「蛍」「蛍」とさんざん悩んだけど、うまく出来なかった。この作品に出合ったとき、蛍を直接詠むのではなく、蛍を待つ間に膨らんでゆく期待を「小声になつてをり」とさりげなく描きだしたところに惹かれた。だんだん夕暮れていく川岸でひそひそと会話を交わす人たち。待ち草臥れたころ青白い光がふっと横切り、小声で話していた人達から歓声があがる。それが合図のように草の茂みに木の枝のあちこちに蛍が光り始めることだろう。そんな感動を味わうためにも蛍見の連れには小声で話しかけることにしよう。『時の舟』(2008)所収。(三宅やよい)


April 1942011

 うららかやカレーを積んで宇宙船

                           浅見 百

治4年に西洋料理としてお目見えしたカレーは、なにより白米に合うことが日本への定着に拍車をかけた。俳句にも〈新幹線待つ春愁のカツカレー〉吉田汀史、〈カレー喰ふ夏の眼をみひらきつ〉涌井紀夫 、〈秋風やカレー一鍋すぐに空〉辻桃子 、〈女正月印度カレーを欲しけり〉小島千架子、と四季を問わず登場する。そして今、国際宇宙ステーションにまで持ち込まれるという。JAXA(宇宙航空研究開発機構)で販売されている「宇宙食カレー」にはビーフ、ポーク、チキンと3種揃っているという。日本人の好物を調べた結果を見ると、どの世代にもラーメンとカレーが上位を占める。どちらも独自の進化をとげて日本の日常に溶け込んできた。あるときは家族に囲まれ、あるいはひとり夜中に、あらゆる人生の場面で顔を出してきた普段の食べ物が、ハレの日に食べてきた寿司や鰻を上回る票数を得て、好物としてあげられているのだ。成層圏を超えていく宇宙船に積まれているのが、普段の食事であるカレーだからこそ、思わず笑顔がこぼれるのである。『それからの私』(2011)所収。(土肥あき子)




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