vq@句

October 26102008

 きちきちの発条ゆるび着地せり

                           益子 聡

ちきちばったなるものを知らなかったわたしは、この句を読んで、きつきつに押さえられていた発条(ぜんまい)から、手を放した瞬間を詠ったものだと思っていました。空中に飛び跳ねるようにして浮かんだゼンマイは、全身を伸びきったところで地上に落ちてきます。とはいうものの、ゼンマイに季節があるわけのものではなく、小澤實氏の「まるで発条じかけのように感じられる飛び方である」という解説を読んで、なるほどと納得したわけです。ネットで調べれば、きちきちばったとは「飛ぶときにキチキチという音を出す、しょうりょうばったの雄の別称」とあります。ちなみにしょうりょうばったのしょうりょうは、漢字では「精霊」と書くということ。なるほど精霊が宿ったゼンマイなのかと、解説を読んでもまだゼンマイを詠んだ句に思えてしまうから、弱ったものです。ゼンマイというものの、エネルギーを蓄えていたものが一瞬のうちに発散しておとなしくなってゆく様子から、ひとの一生の流れを思い始めてしまうのは、秋も深まってきたからなのでしょうか。金属製のゼンマイにも、幾重にも折り込まれた季節が、隠されているような気がしてきました。「読売俳壇」(「読売新聞」2008年10月20日付)所載。(松下育男)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます