December 082008
人込みに又逢ふ人や十二月
植田 航
新年を迎えるための買い物客でごったがえしている「人込み」だろう。歳末の人込みは、普段のそれとはだいぶ違う感じがする。物理的には変わらないにしても、普段のそれが人々の目的意識がばらばらであるのに比して、年末のそれはおおかたが年用意のためとわかっているからだ。見知らぬ他人にも、なんとなく連帯感のような感情すら覚えてしまう。この「又逢ふ人」は見知らぬ人であっても構わないけれど、むしろ顔見知りのほうが面白い。そんなに親しくはないが、道で会えば会釈をかわすくらいの関係である。だから最前、人込みですれ違ったときにも、お互いにすぐに気がついて、軽く頭をさげあったばかりなのだ。が、作者が買い物に手間取ってうろうろしているうちに、またその人に出会ってしまった。先方も、たぶんうろうろと同じところを歩き回っていたのだろう。こういうときは、なまじ顔看取りであるだけに、バツが悪い。もう一度会釈をするわけにもいかないので、半分は口の中で「やあ」などと言いながら苦笑ともなんとも言い難い表情をつくるしかないのである。いかにも「十二月」ならではの人情の機微を良くとらえた佳句である。『半日の旅』(2008)所収。(清水哲男)
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