December 182008
やはらかに鳩ゐて冬の屋根瓦
中里夏彦
引き締まった空気と屋根瓦の堅さ、冷たさ。その感触は鳩がいてこそだろう。屋根にきている鳩は冬毛をぷわぷわふくらませ、霜の降りた瓦をいっそう冷たく感じさせる。むかし屋根に鳩小屋をしつらえ、朝などにいっせいに飛ばして訓練している様子があちこちで見られたものだ。メールが飛び交う現在、伝書鳩を使うこともないし競技用に飼われる鳩もめっきり少なくなったことだろう。町のあちこちで迷惑がられている土鳩の先祖は役目から解放された伝書鳩かもしれない。いったん鳩が棲みつくと屋根やベランダが糞で真っ白にされて大変だと聞く。「餌をやらないでください」といった貼り紙も目にする。冬の瓦に乗る鳩もそれを眺める人間も離れているうちはいいが、密集した都会で共に暮らすには難しくなってきている。『俳句の現在 3』(1983)所載。(三宅やよい)
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