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January 1312009

 サーカスの去りたる轍氷りけり

                           日原 傳

郷の静岡には毎年お正月にサーカスが来ていた。「象がいるから雪の降らない静岡にいるんだ」などと、勝手に思い込んでいた節もあるので実際毎年必ず来ていたのかどうか定かではないが、サーカスのテントは見るたび寒風のなかにあった。冬休みが終わり、三学期が始まり、学校の行き帰りに大きなテントを目にしていたが、実際に連れて行ってもらったかどうかは曖昧だ。さらにトラックの行列や設営のあれこれは見ているのに、引き上げるトラックを見かけた記憶はなく、いつもある日突然拭ったような空間がごろり放り出されるように広がって、ああ、いなくなったのだ、と思う。掲句はさまざまな年代がサーカスに抱く、それぞれの複雑な思いを幾筋もの轍に込めている。そしてわたしも、どうして「行きたい」と言えなかったのだろう、と大きな空地になってから思うのだった。〈花の名を魚に与へてあたたかし〉〈伝言を巫女は菊師にささやきぬ〉『此君』(2008)所収。書名「此君(しくん)」は竹の異称。(土肥あき子)




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