ム貴q句

January 2012009

 自転車を嘶く形にそろへ冬

                           小林貴子

の多い東京の町を自転車で走るとき、ときおり人馬一体という言葉が頭をよぎる。上り坂でがんばっているのは自分ひとりのはずなのに「がんばれがんばれ」と自転車に言い聞かせている。その中にすとんと体を収める自動車は移動する自室という感覚になるが、サドルにまたがりペダルを漕ぐという肉体的な動作を伴い、外気と触れ続ける自転車は、歩くや走るの延長線上にあり、尚かつ愛着のあるものともなると愛馬に抱く感情に近い。掲句もきれいに並べられた自転車置き場に自分の一台を加えたとき、ふとつながれた馬の姿を重ねたのだろう。人間の足音が遠ざかったのち、ほうぼうの自転車は嘶きの白息をこぼすのかもしれない。今回ネットサーフィンのなかで「サイクルポロ」という競技を見つけた。その名の通り自転車を使ったポロ競技で、馬を飼うのが大変だったことが起源という。しかし、さすがに流鏑馬のかわりに自転車で、という競技は今のところないようだ。〈マント羽織るときに体を半回転〉〈遠き冬針焼いて棘抜きしこと〉『紅娘』(2008)所収。書名「紅娘」はてんとうむし。(土肥あき子)




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