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March 0532009

 おっぱいの匂いがするよ春の椅子

                           朝倉晴美

児のやり方も年を追って変わってゆく。やれうつぶせ寝がいい、泣いてすぐに抱くのはダメ。おんぶより前抱きがいいだの、育児書はやかましい。粉ミルクだと腹持ちがいいせいか調子がよければ朝まで寝てくれるが、母乳だと飲み足りないのか何度も泣き声に起こされた記憶がある。寝たまま授乳をすると寝込んだときに赤ちゃんを押しつぶしてしまうので、必ず起きて授乳するようにと、本にも書いてあったので赤ちゃんを抱えて半分眠りながら台所の椅子に座った。生暖かいおっぱいの匂いが自分のものか赤子のものかわからなくなるほど朝も夜も授乳に明け暮れる日々がどのくらい続いたことか。よちよち歩きの子供を見るたびに、あんなに大きく育って羨ましいとため息をついたものだ。そんな日々もたちまち過去のものとなり、掲句を見てすっかり忘れていた日々を思い出した。おっぱいの甘酸っぱい匂いに包まれる椅子には春の光が似つかわしい。一人で座る腕にもう赤ん坊はいないけれど、遠く過ぎ去った日々を椅子はいつまでも記憶している。『宇宙の旅』(2008)所収。(三宅やよい)




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