March 142009
猫の恋太古のまゝの月夜かな
宇野 靖
ここ一、二年、一階に住む妹の家に毎日猫がやってくるようになった。野良もいれば、首輪をした飼い猫もいて、ふらりとやって来ては、餌を食べていなくなる。幸い「野良猫に餌をやっては困ります」という話がご近所から出ることもなく、猫の方もこの界隈を渡り歩いてゆるゆる過ごしているようだ。でも、そのわりには特にここ数年、春になっても夜は静かな気がする、恋してるのか、猫。ともあれ、月を仰ぐ時、海を見る時、山頂からさらに遙かな山々を見渡す時、太古の昔から変わらない風景なのだという感慨と共に、自らのヒトとしての本能を呼びさまされるような気がする。作者も、そんな気持ちになったのだろうか。ざわざわと内なるものの波立つ春の夜。掲出句は、「ホトトギス雑詠選集 春の部」(1989・朝日新聞社)にあり、昭和十二年に掲載されたもの。昭和十二年といえば、河東碧梧桐が亡くなった年だな、ということを、以前どこかで観た、碧梧桐の猫の絵のくっきりした墨の色と共に思い出した。(今井肖子)
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