Jm句

March 2632009

 琴光喜おしりが勝つと言うて春

                           中谷仁美

のむかし相撲に熱中していた時期がある。毎日毎日中入り前から見ていたのであらかたの力士の名前を覚えていたが、この頃はめっきり見る機会が減り、番付に知らない名前が増えた。覚えているところでは太い腕で豪快に投げを打つ魁皇、朝青龍は相手をにらみ返す流星のような目が印象的だ。琴光喜は作者が贔屓にしている力士。しこを踏む姿、立合いの仕切りの姿に回しをぎゅっと締めこんだお尻がチャームポイントなのだろう。大事な取り組みの勝利を願って作者は正坐でテレビを見守っているのかもしれない。「この一番、勝って!」という熱い思いに画面の中の琴光喜のお尻が「勝つ」と答えているようだ。この勝負「琴光喜寄り切りだろう春の雷」の句のように怒涛の攻めで琴光喜が勝っただろうか。今場所も残り少ないけど、怪我することなく頑張ってほしいものですね。『どすこい』(2008)所収。(三宅やよい)


November 10112011

 立冬のきのこ会議の白熱す

                           中谷仁美

冬をさかいに朝晩冷え込むようになってきた。この季節、椎茸、舞茸、シメジなど鍋に入れるきのこがとりわけおいしく感じられる。きのこ会議とは、林の中のきのこの正体をめぐって繰り広げられる議論なのか。ひょっとすると居酒屋のメニューを前にきのこをめぐってたわいもない話しが盛り上がっているだけかもしれぬ。人間主体でなくとも、ひとの踏み込まぬ林の奥で、栗茸や楢茸や舞茸が、ああ、もう本格的な冬が近い。この世から消えてしまう前に来年の場所取りに決着をつけなければと、熱心に会議している童話的世界を想像しても楽しい。実り多き秋、紅葉の秋が過ぎると山もめっきり寂しくなる。今のうちに多種多様なきのこを楽しむことにしよう。『どすこい』(2008)所収。(三宅やよい)


May 1452015

 飛行機が大きく見える夏が来る

                           中谷仁美

年の春はぐずぐずと雨が降っていつまでも寒さが残ると思っていたが、四月の下旬から突然夏になった。立夏の前に早々と夏の只中に放り込まれた印象だった。ぼんやりと霞んだような春空の曖昧さとは違い、夏空は輝く群青で、ものの輪郭をくっきりと描き出す。頭上の爆音に空を見上げれば銀色の腹に時折鋭い光をきらめかせながら飛行機がゆっくりと横切ってゆく。夏空をゆく飛行機は他の季節にくらべてひときわ大きく力強い。エネルギーに満ちた夏の訪れは楽しみでもあるが、照りつける日差しと熱気にいたぶられ、うんざりと連日の「晴れ」マークが続く日々でもある。さて、本格的な夏が来るが、今年の夏はどんな夏だろう。『関西俳句なう』(2015)所載。(三宅やよい)


July 0272015

 台形の面積のこと蛇のこと

                           中谷仁美

形の面積?小学校のときに習ったけど思い出せない。ネットで検索すればすぐに公式は出て来るけど、丸暗記した記憶は頭の片隅にも残っていない。「こんなこと勉強しても仕方がない」苦手な理数科系の教科の試験の前にはいつでもそんな不満が頭を渦巻いていた。そんな台形の面積と蛇が並列においてあるってことは句の裏の気持ちはどちらも苦手っていうことか。で、なくとも台形の面積を学んだあとに蛇のからだの仕組みの授業なのかも。唐突に台形の面積と公式と蛇が並ぶこの並びかたがおかしい。田畑の多い田舎では夏場の蛇はありふれたものだったが、最近は青大将も動物園の爬虫類館でみる有様、蛇も公式と同じように今や観念的存在なのかも。『関西俳句なう』(2015)所載。(三宅やよい)




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