April 222009
つじかぜやつばめつばくろつばくらめ
日夏耿之介
燕は「つばくろ」「つばくら」「つばくらめ」などとも呼ばれ、「乙鳥(おつどり)」「玄鳥(げんちやう)」とも書かれる。「燕」は夏の季語とまちがわれやすいけれど、春の季語である。しかも「燕の子」だと夏の季語となり、「燕帰る」は秋の季語となる。それだけ四季を通じて、私たちに親しまれ、珍重されてきた身近かな鳥だということなのであろう。さて、耿之介の詩句には、たとえば「神の聖座に熟睡(うまい)するは偏寵(へんちょう)の児(うなゐ) われ也/人畜(もの)ありて許多(ここだく)に寒夜(かんや)を叫ぶ……」という一例がある。漢語の多用や独自な訓読など、和漢洋の語彙を夥しく散りばめた異色の詩のスタイルで知られた耿之介が、反動のように平仮名だけで詠ったのが掲出句。しかも春の辻風つまり旋風に煽られて、舞うがごとく旋回するがごとく何羽もの燕たちが勢いよく飛び交っている情景だろう。燕は空高くではなく低空を素早く飛ぶ。「つばめつばくろつばくらめ」と重ねることによって、燕たちがたくさん飛んでいる様子がダイナミックに見えてくる。勢いのある俳句である。俳号は黄眠。『婆羅門俳諧』など二冊の句集があり、「夏くさやかへるの目玉神のごとし」という句もある。『文人俳句歳時記』(1969)所収。(八木忠栄)
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