May 102009
女學院前にて揚羽見失ふ
浅井一志
季語は「揚羽」、夏です。揚羽蝶の大ぶりな美しさは、たしかに夏の季節にふさわしく感じられます。この句に惹かれたのは、なんと言っても「女學院」の一語ゆえでしょうか。目の前をさきほどから、まるで自分の行く先について行くように、派手な柄の蝶が舞っています。その姿に見とれながら歩いていたのが、つい見失ってしまい、気がつけばそこは女学院の前だったというわけです。生の真っ只中での、揚羽蝶と女学生のいきいきとした美しさが、見事に競い合っています。たしかに見失った場所が別のところだったなら、このようなくっきりと鮮やかな句にはならなかったでしょう。ペギー葉山の歌を持ち出すまでもなく、学生の日々の出来事や友人を思い出せば、いつも同じ場所の切なさにたどりつきます。その心情はまさに、いつまでもまとわりつく蝶のようでもあり、目で追い続けていたのは蝶の姿と、遠く懐かしい日々だったのです。「俳句」(2009年4月号)所載。(松下育男)
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