新人デュオのキャンペーン。あまり見物人はいなかった。吉祥寺パルコ前。(哲




2009N514句(前日までの二句を含む)

May 1452009

 朴の花朝の卵を二つ割る

                           河西志帆

京では日中、夏のように暑い日が続いたけれどひんやり、さっぱりした朝晩の空気はこの季節ならではのもの。毎年開くのを楽しみにしている近所の泰山木の花はまだ固い蕾だけど朴の花が咲くのはいつごろだろう。「群生する梢の先に黄白色の大きな花を開く」と歳時記にあるが、朴の葉は大きく茂るので、下から見上げても花の全容は定かでないだろう。それでも泰山木と同じく青空に凛と咲く立ち姿を想像するのも味わいがある。「二つ割る」は卵の数であって、卵を二つに割るという意味ではないのだけど、卵をボールに割りおとしときの黄味の盛り上がりとぱかんと割れた卵の殻が朴の花のイメージと重なる。初夏の爽やかな朝の空気と新鮮な卵を割りおとしたときの感覚がよくマッチしていて気持ちがいい。卵を割る何気ない日常の動作と朴の花。どこか手放せない新鮮な印象がこの取り合わせから生まれている。『水を朗読するように』(2008)所収。(三宅やよい)


May 1352009

 深川や低き家並のさつき空

                           永井荷風

五「深川や」のすべり出しで、下町の景色がパノラマのように広がる。もちろんノッポやデブの建物などない時代、かつての下町風景である。しかも五月晴れの空が果てしなく広がっている。初夏の空気はどこまでも澄んでいただろうし、時間もゆったり刻まれていたことだろう。五月晴れの空の下に、肩寄せ合っている「低き家並(やなみ)」がうれしい。そこに慎ましい日々を、マメに営む人々の姿も見えてくるようだ。「さつき」は「早苗月」の略とするのが一般的だそうである。江東区深川は下町の代表とされる。地名のおこりは、江東の湿地帯を開拓した深川八郎右衛門にちなんでいるとか。隅田川と荒川にはさまれて、運河や小さな川などが縦横に走る一帯である。小石川生まれの荷風が好んで浅草や深川あたりを逍遥し、数々の名作や日記を残したことは改めて記すまでもない。さつきを詠んだ荷風の句に「青梅の屋根打つ音や五月寒」がある。風景の広がりを詠んだ掲出句に対し、こちらの句は音を詠んでいる。今年は荷風没後五十年。好んで郊外を散歩したわけを、荷風は「平生、胸底に往来している感想によく調和する風景を求めて、瞬間の慰謝にしたいため」と書き残している。『荷風句集』(1948)所収。(八木忠栄)


May 1252009

 裁ち台のウエディングドレス風薫る

                           長谷川祥子

夏を過ぎ、梅雨に入るまでの東京の気温と湿度は、わずかに高原の夏にも似た快適さを感じることができる貴重な一ヵ月である。一年のなかでもっとも清潔感あふれる陽気ではないかと思う。明るい日差しに、緑の香を濃く溶いた風を、半袖になったばかりの腕に受けるのは、まるでミントの葉が添えられたアイスクリームのように心地よい。そしてその明るさは、木陰の闇を一層意識させるまぶしさでもある。掲句の裁ち台に置かれているのが、未完成のウエディングドレスであることに大きく胸が波立った。初夏の風は窓辺のカーテンを船の帆のようにふくらませたあと、純白のサテンやシフォンが渦巻くなかに、紛れ込んだのだ。何の樹、何の花とも判然としないが、しかしはっきりと含まれる芳香が、結婚という儀式のおごそかな美しさと、ほのかな秘密の気配を引き寄せる。まだ形をなしていないなめらかな生地が丁寧に裁断され、縫い合わされ、ゆっくりと六月の花嫁を包むウエディングドレスになっていく。『野外奏』(2008)所収。(土肥あき子)




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