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August 0282009

 一人置いて好きな人ゐるビールかな

                           安田畝風

の句をはじめて読んだときには、何をいっているのかよくわかりませんでした。2度目に読んで、ああそうか、「一人置いて」というのは、並んで座っている隣の、その向こうをいっているのだなと気づきました。それならばこれは、ビヤホールの情景を詠っているのです。きらびやかな照明の下、いくつもの騒がしい声が、高い天井を響かせています。テーブルを囲む友人たちの声も、顔をそちらへ持っていかなければ聞こえません。でも、作者にとってそんなことは、たいした問題ではありません。気にかかるのは常に、一人置いて向こう側に座っている人のことのようです。席を決めるときに、隣に座ろうとする勇気はありませんでした。それでも近くに席を取り、隣の人を通じて、間接的に感じられるその人の振る舞いに、心はひどくとらわれています。ビールのジョッキがすすむにつれて、酔いは回り、気持ちはどんどん大きくなってきます。けれど、その人に対する態度だけは、いつまでたっても間接的で、控えめなままなのです。『角川俳句大歳時記 夏』(2006・角川書店)所載。(松下育男)




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