ツ木疹句

August 1682009

 肩が凝るほど澄みきつている空だ

                           青木澄江

が凝るという表現が、秋の空を表すのに適しているかどうかについては、人によって考え方も違うでしょう。ただ、空が高くから下りてきて、目の中をいっぱいにする様子は、容易に想像できます。あふれるほどの空は、まぶたから外へこぼれることなく、視神経を通過して人の奥へ入り込んでゆきます。この視神経の疲れが、目と、肩こりを結びつけているのだと、一応理屈は付けられますが、そんなことはどうでもよいでしょう。むしろ、肩が凝るほどに澄んだ空を見つめ続けるこの人に、いったい何があったのかと、つい想像してしまうのです。思えば文学作品で読む空のほうが、現実で見上げる空よりも、実際は多いのかもしれません。鳥が飛んでいなければ、空のことはもっと分かりづらかった、という詩が、そういえばありました。具体的な出来事はわからないけれども、なんにもないものをひたすら見つめていたい心持は、だれだって理解できます。『角川俳句大歳時記 秋』(2006・角川書店)所載。(松下育男)




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